p.12-3  福島原子力発電所事故
     チェルノブイリ原発事故の7分の1
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 前回の副読本には「放射性物質の放出量が多く、広範囲に及ぶ深刻な放出であったことから、最も深刻な事故であることを示す「レベル7」と判断されています。」とあり、「ひとたび原子力発電所等の放射性物質を扱う施設で事故が起これば、極めて長期間かつ広範囲にわたって甚大な被害をもたらします。」と事故の教訓を受け止めようという姿勢がありました。

 最新の再改訂版では、その記述が消え、新たに「この事故で放出された放射性物質の量は昭和61年(1986年)にソビエト連邦(現在のウクライナ)で起きたチェルノブイリ原子力発電所事故の約7分の1であり、福島県が平成30年4月までに県民等に対して実施した内部被ばくによる放射線の量を測定する検査の結果によれば、 検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかったとされています」という記述が付け加えられました。

 これではチェルノブイリ原発事故と比べて、放射線量がかなり少なかったのだな、福島県の人たちもみんな健康への影響は全くなかったんだな、と理解されてしまいます。原発事故が起きても大したことはないから、再稼働しても大丈夫だというための説明に見えます。

   福島県では、今問題になっている甲状腺がんの原因になる放射性ヨウ素による内部被ばくも30キロ圏外の1080人の子どもしか測っていませんし、測った場所の線量が高く、測り方に不備があったことは専門家の間でもよく知られています。その結果を基に、「検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった」といわれても信頼できません。また、現実問題として福島県では通常の数十倍にも上る小児甲状腺がんが発症しています。放射線被ばくに由来する甲状腺がん以外の循環器系の疾患、心臓疾患等の様々な病気のデータも出てきています。


 前回の副読本には7段階の「国際原子力事象評価」を示すことにより、福島第一原子力発電所事故もチェルノブイリ原発事故と同レベルの最も「深刻な事故」という評価の表を載せていましたが、今回は掲載していません。 また、岩手県から長野県・静岡県にかけての東日本の地図を掲載して、セシウムがどれだけ降り積もったかを、わかりやすく示していた地図も削除されました。

【右地図】
 原子炉から溶け出し環境中に放出されたセシウム137,放射性ヨウ素などをはじめとする色々な種類の放射性物質はその時の風にのって流れ、雨や雪について落下し、東日本一帯を汚染しました。

 前回の副読本には「福島第一原子力発電所の廃止に向けて、原子炉からの核燃料の取り出しや汚染水の問題、作業要員の確保及び作業環境の改善などの課題があり、今後もそれらの解決に向けた努力が必要となっています。」の記述がありました。現在でもそのまま使うことのできる・課題であり続けている・解決に向けた努力の必要な内容でしたが、すっかり削除されました。

 再改訂版では「廃炉作業が進められていますが、継続的な注水により原子炉を冷却することで、福島第一原子力発電所の原子炉は安定した状態を維持しています。」と、問題点は言わないで、安心させることを目的に言葉を選んでいるようです。

 「継続的な注水」を言うなら、その注水によって大量の汚染水が継続的に生まれていることを言わなければなりません。汚染水の保管場所がなくて困っているという現実があります。メルトダウン・メルトスルーした原子炉の中がまだどうなっているのか、ロボットを使っての手探り状態の中で「安定した状態」とはとうてい言えないでしょうし、廃炉の見通しも立っていません。

       
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