p.13-5  放射線などの健康影響に不安を感じた人 ↑前のページへもどる


 こうした住民の方々の被害の実相を伝える記述が入っていることは、評価できると思います。 ただし、まだ記述が十分ではないように思います。

■放射線基準   人々が心の病にかかる原因のひとつは放射線被ばくにあります。放射能で汚染されてしまったことは事実です。放射能汚染による被ばくがあるなら、それを恐れるのは当然です。 そうでありながら、放射線の被ばく基準を緩和して「この程度なら大丈夫」という言い方で汚染地の人々を説得しようとするところから、困難や不安は増大します。
 困難や不安を取り除くには、汚染のない環境での生活を保障するしかありません。しかし、東電・政府はきちんと保障しようとはしていないから「不安」は増大しています。
 「多くの困難や不安を抱える人々」の中には、こどもたちが多く含まれることを忘れてはいけません。こどもたちへの放射線の影響を心配する母親と、仕事で福島を離れることが出来ない父親、あるいは、放射線の影響を軽視する父親もいるそうです。転居をめぐって夫婦の諍いが増え、離婚にまでいたってしまったというケースは事故以来数多く聞こえてきます。一番の被害者はこどもたちです。そうしたケースがどれくらいあるのか、きちんと行政は把握する必要があると思います。
 根本的な原因は、こどもたちを含め被ばく線量年間20mSvまでのガマンを強制する国の基準にあります。チェルノブイリでは年間5mSv以上の地域では移住の権利が認められています。
 事故前の基準で、年間1mSvの被ばくという基準は十分科学的説得力があったはずですが、復興・賠償費用を抑制しようとする国の都合でそれが引き上げられてしまいました。
   事故を起こしてしまった責任として、事故前の基準で暮らすことをきちんと保障することが大切です。費用負担を理由に、過剰な被ばくを無理強いさせることが、人間関係をこわしています。

       原発離婚:福島民友新聞 2014.1.5.

注:避難指示解除準備区域は、20mSv/年までの地域。

■避難か帰還か、選ぶ自由   「復興」するためには、故郷の住民の帰還が必要だという考え方で、避難する権利が奪われようとしています。避難指示解除準備区域の指定がはずされると、賠償金が打ち切られ、帰還を余儀なくされる現在のしくみでは、住民の権利がきちんと保証されているとはいえません。
 放射線の危険をごまかさずにきちんと伝え、その上で帰還を住民が選ぶかどうか、住民自身の自由な選択に任せるべきです。

■避難者 県内へ7,235人 県外へ32,476人 2019.3月末現在

■「避難」の長期化  今後は避難が長期化していくことの問題も起きてきます。事故から8年目が過ぎ、避難している方々は避難先で「避難生活」を続けています。しかし、例えばこどもたちは、「避難先」の地で学校などへ通い、8年近くの年月がたっています。新しい友だちも出来、新しい生活が始まっています。親の生活も、収入を得るための「仮雇用」が続いています。今後「帰還」を考えるとすると、現在の「避難生活」あくまでも仮のものとなり、また生活はふりだしにもどる覚悟をする必要があります。しかも、帰還先の故郷のインフラやコミュニティは元通りになるかどうか、あやぶまれています。
 心の底の故郷への思い、それ故に苦しんでいる人々の気持ちを推しはかりながら、結果的には帰還を断念せざるを得ない人々をささえる、そうした帰還ありきではない施策が求められていきます。

     
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