この言い方は12ページにも出ています。しかし、その根拠はあやしいといわざるを得ません。この副読本の読者に安心感を与えるためだけに、こうした表現がされているようです。
■福島県における小児甲状腺がんの多発
チェルノブイリ原発事故の時に小児甲状腺がんが増えましたので、福島県でも2011年10月から事故の時に18歳以下であった人を対象に甲状腺検査を始めました。検査は20歳までは2年おきに20歳を超えたら5年毎に行われます。
現在(2019年)は4巡目の検査が行われています。表に示すようにこれまでに手術の結果166人ががんと確定しています。小児甲状腺がんは非常に希ながんで、通常は100万人に1人〜3人といわれています。それが約30万人中確定しただけでも166人もがんになっていますから明らかな多発です。
しかし、福島県では被ばくの影響とは考えにくいとしています。その理由の一つが「身体の中に入った放射性物質から受ける放射線の量を測定する検査の結果によれば、検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった」としているためです。これは、甲状腺がんの原因になる放射性ヨウ素(I131)による内部被ばくのことを指していると考えられます。
この測定は事故の時18歳以下であった約38万人中1,080人しか測っていませんし、測った場所の線量が高く、測り方に不備があったため信用性に乏しいことが専門家の間でもよく知られています。
■どんな測定が行われたか
甲状腺に影響する放射性物質はヨウ素131です。その半減期は8日で、事故直後でなければ測定できません。検査を実施したとき、周辺は高濃度の放射性プルームが漂っている状況で、被験者はそのプルームの中をかいくぐって検査を受けに来ました。甲状腺のヨウ素131集積を測るのには、喉に放射線検知器を当てて線量を測ります。しかし、被験者の肩や胸には放射性物質が付着している状態でしたから、喉で測った線量から、肩のところで測った線量を差し引いて、線量を記録したそうです。その結果、記録された線量がマイナスになったこともあったそうです。このような測定では、喉の放射性ヨウ素だけの濃度を測定できるはずがありません。
このような測定結果を基に、"検査を受けた全員が健康に影響が及ぶ数値ではなかった"などといわれても納得はできません。
また、放射線被ばくに由来する甲状腺がん以外の循環器系の疾患、心臓疾患等の様々な病気のデータも出てきています。
福島県県民健康調査甲状腺検査結果 (2018年12月27日 第33回検討委員会発表まで)