改訂・文科省放射線副読本 中学・高校
p.16-7:  放射線について科学的に理解すればいじめはなくなる? ↑前のページへもどる


■文部科学大臣のメッセージ
 「放射線について科学的に理解することも大事なことです。そうすれば、皆さんが、こうした友達へのいじめをする側にも、見て見ぬふりをする側にもならず、いじめをなくすことができると私は信じています。」

 文部科学大臣は、いじめ問題の本質がわかっていないようです。
 いくら放射線のことを勉強して理解しても、いじめがなくなるとは思えません。科学的知識によっていじめがなくなるはずと思うのは、これも"欠如理論"の一種かもしれません。欠如理論というのは、あるものごとの社会的受容が進まないのは、そのものごとへの科学的理解が欠如しているからだと考え、そのものごとについて教え込めば受容が進むとする考え方です。原子力発電を世の中に受け入れさせるために、電力会社や政府がとってきた理論です。原子力発電の場合でもこれは誤った理論でしたが、いじめ問題ではさらに的外れです。

■放射線の科学的理解
 放射線の科学的性質を理解し、放射線に対する"誤解"から子どもたちが解き放たれても、それだけでいじめがなくなるとは思えません。いじめの理由として伝えられる"誤解"について検討してみましょう。
 例えば、福島の子は被ばくして身体に"放射能"を持っている、それが周りの人に伝染する、というものが典型的でしょうか。
 この問題に対する科学的な理解とは、放射能という用語を"放射線"と"放射性物質"とにきちんと区別し理解することでしょう。放射線であれば、放射線はエネルギーですから、被ばくした人の身体の中にとどまることはなく、細胞やDNAを傷つけて身体には残りません。放射性物質ということであれば、もし身体や衣服についている放射性物質があるのならばそれを払い落とす必要があり、その意味ではきちんと測定し、除染しないと人に移してしまうことになるでしょう。
 さらに、どれほどの被ばくをしてしまったのか、あるいはどれほどの放射性物質を帯びているのか、そうしたことについての正確な知識が、いわゆる科学的理解ということになるのでしょう。しかし、これらの被ばく量の測定値については、事故直後には測定し、公表することを当局はしていませんでした。その結果かえって疑心暗鬼になった人たちもいます。

 文部科学省の放射線に対する科学的理解というのは、どうもこうした理解とは異なるようです。それは、一言で言えば、安心安全理論なのではないでしょうか。

・低レベルの放射線は被ばくしても直ちに影響はない。(低レベルとは年20mSv?、あるいは100mSv?)【LNT説(しきい値無し直線説)に関わる問題】
・除染して年20mSv以下になって避難指示が解除された地域では、居住しても健康に影響はない。
・一般食品の流通基準は世界一厳しい基準であり、1kgあたり100Bq(ベクレル)以下の食品ならば、食べても安全である。
・さらには、この副読本4ページに書かれているようなことがら、すなわち、放射線は身の回りに日常的に存在していて、放射線を受ける量をゼロにすることはできない、ということ。

 これらの"知識"を科学的な理解として身につけることを文部科学省は推奨しているようです。しかし、これらは"知識"というより、文部科学省の"主張"といった方が適切です。それぞれについて異論があることはわたしたちのこの放射線副読本批判的検証ホームページの各所でふれています。

    ■いじめはどうして起こる・・・経験則として
 そうした文部科学省の主張する"科学的知識"に無知であることが、いじめの直接的な理由になっているとは思えません。別の言い方をすると、福島の子が、放射能を帯びていないことがわかっても、いじめられなくなるとは思えないのです。
 "自分たち"とはどこか違う子・・・"自分たち"という区切り方はとても流動的です・・・、暗い表情をしている子・・・・辛い経験ゆえからかもしれないし、新しい環境に溶け込めなくて沈んでいるのかもしれませんが、どんな理由にせよ・・・・、いじめても反応を恐れる必要がない子、そんな子どもがいじめのターゲットになります。放射線の問題は、いじめるときの一つの口実になるだけのようです。

 福島の子どもたちにかぎらず、子ども社会からいじめのなくすためにはどうしたらよいかという文脈でこの問題は考えなければなりません。そのためには、大人の社会も含めて、どんな人でも子どもでも受け入れる、ほんとの多様性を受け入れる社会をめざす必要があります。

 これだけいじめそのものが社会問題化している中で、その対応をするべき文部科学大臣の認識がこんな程度であることが、今日の教育行政の問題を象徴しています。

■いじめ問題の社会的側面。
 福島の子どもがいじめられた理由で、社会的側面に関わる問題があります。いじめ問題としてはこちらの方が深刻です。
 福島から避難してきた子(の家族)は十分な賠償金をもらっていると思われて、お金を巻き上げられた問題です。
 まず、賠償金についての"誤解"があります。避難指示地域から避難している人は、たしかに生活補償として賠償金を受け取っていることでしょう。しかし、家族の全財産、すべての家族の思い出・記念、隣近所のコミュニティー等々を失った代価として、受け取った賠償金は見合うものでしょうか。また、避難指示の出ていない地域からの避難者(自主避難者)には、ほとんど生活補償はされていません。でも、福島からの避難者というだけでみんなひとくくりにされてしまいます。
 いずれにしても、賠償金をもらっているかどうかなどということを、子どもたちが問題にすることはないでしょうから、大人たちのやっかみからでた噂話を子どもたちが聞き及んで、いじめのネタとして利用したといえるでしょう。大人社会の問題が子どもたちに反映しています。
 日本社会全体が格差社会になり、貧困がいじめ問題の背景にあるということもいえるとは思いますが、それをここでいっても始まらないので、福島の問題に限定します。
 少なくとも、何のとがもなく放射能汚染によってふるさとを追われた福島の人々を世の中全体で受け入れ支えていく、そうした社会全体の対応が求められています。

        
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