p.16-12  原子力を含む国のエネルギー政策や
    行政体制の見直しが行われました
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 「原子力を含む国のエネルギー政策や行政体制の見直しが行われました」・・・この表現は事実と相違している部分があります。確かに見直そうとした動きはありましたが、結果として現在ではその見直しは反映されていません。そのいきさつを振り返ってみましょう。

■密室の議論:日本のエネルギー基本計画
 日本のエネルギー政策は、おおむね3〜4年ごとに見直されるエネルギー基本計画によって方向がつけられてきました。しかし、この基本計画を策定するのは、経産省の総合資源エネルギー調査会・基本政策分科会というところです。そのメンバーは電力・エネルギー業界にかかわる関係者によってほとんどが占められていて、利益相反に抵触しそうなメンバーもいます。

   現在(2019年)の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会委員名簿

 2011年3月11日に起こった福島原子力発電所の事故を契機に、原子力を推進してきたエネルギー政策に対して見直しを求める世論がたかまりました。
 当時の民主党政権は、2010年の第三次基本計画では、国際公約である温室効果ガス削減を口実として原発新増設を打ち出していました。福島原発事故を契機に、さすがに原発反対の世論に押されてエネルギー政策の見直しに着手しました。

■国民的議論
 その際、民主党菅直人政権は、それまでの密室の議論で決められていたエネルギー基本計画策定に、国民の意見を広く聴取する仕組みを取り入れて、新たな基本計画策定に向けて動き出しました。
 2011年6月7日にエネルギー・環境会議を設置し、議論を重ねた結果、2012年6月29日に「エネルギー・環境に関する選択肢」を提示しました。2030年の原発依存度を、0%、15%、20〜25% という三つのシナリオを提示したのです。この三つのシナリオをもとに、国民同士の対話が進むよう、国民的議論を更に展開し、エネルギー・環境の選択肢に関する情報提供データベースの整備、意見聴取会の全国11カ所での開催、討論型世論調査、パブリックコメントの募集等を行いました。この議論を運営する中心主体からは、電力・エネルギー関連団体の利害関係者が排除されていましたので、日本でのエネルギー政策策定過程では画期的だといえる中立的な立場で議論する場がつくられていたと言ってよいでしょう。

■ドイツの国民的議論
 同じ時期、ドイツではメルケル政権のもとで、脱原発を明確な旗印として「安全なエネルギー供給に関する倫理委員会」が設置されていました。その委員会のメンバーには、電力や原子力の関係者は一人も含まれておらず、社会学者やカトリックとプロテスタント双方のキリスト教関係者、消費者問題やリスク問題の専門家、倫理学の研究者や、与野党の政治家などが選ばれていました。そこでは、原子力開発の問題がドイツの将来に関わる倫理の問題(エネルギーと社会の在り方について、社会の根本的な価値観から議論を始めること、さらには将来の世代への責任の問題)として議論されていったとのことです。
 また、「原子力が必要かどうかの決断は原子力の技術専門家が決めることではなく、社会が決めるべき」との考えにもとづいて、社会に開かれたオープンな議論の場を設定しました。委員による集中的な議論と、200〜300名に及ぶ一般参加者との対話の場を設け、11時間に及ぶ討議の模様をテレビで生中継したそうです。
 そうした議論の結果、ドイツのメルケル首相は「2022年までに脱原発」という決定をしました。 

■日本の議論その後
   2011年秋に菅直人政権から代わった野田佳彦政権は「国民的議論」の取りまとめとして「2030年代の原発稼働ゼロを目指す」という新エネルギー戦略を2012年9月14日に打ち出しました。「40年たった原発は廃炉」「新増設しない」「原子力規制委員会が安全と認めた原発は再稼働」という3原則も示しました。しかし、この戦略は政府方針として閣議決定されませんでした。猛反対をしてきた産業界・経済界と、それによってうごかされた官僚たちの抵抗にあったのです。「今後のエネルギー・環境政策は、戦略を踏まえて、柔軟性を持って不断の検証と見直しを行いながら遂行する」との一文のみが9月19日に閣議決定されました。
 2012年11月に、野田首相による突然の衆議院解散により、同年12月の衆議院選挙で民主党が大敗し自民党へ政権交代しました。第二次安倍晋三内閣となり、復活した自民党政権下でエネルギー政策策定は元の密室の議論に戻されてしまいました。野田政権下でまとめられた新エネルギー戦略を白紙撤回し、原発を重要なベースロード電源として位置付けたエネルギー基本計画案が策定されました。この基本計画案を2013年12月にパブリックコメント(パブコメ)にかけた結果、一カ月のパブコメ募集期間中、年末年始の官庁休業期間を挟んでいたにもかかわらず、約1万9千件の意見が寄せられたそうです。2014年2月に経産省はパブコメのまとめを発表しましたが、肝心の原発の賛否割合に関しては公表しませんでした。当時の茂木敏充経産相は「数ではなく内容に注目して整理を行った」と国会で説明しました。・・・要するに、数の多少にかかわらず政府にとって都合の良くなるようにパブコメ結果を整理したということでしょう。

 後日談で、朝日新聞の小森敦司記者が、20万円あまりの個人の負担で経産省にパブコメ結果を開示請求して、20,929ページのコピーを取り寄せ、ほぼ一人で集計したそうです。すると、94.4%は「脱原発」で、「原発維持・推進」は1.1%だったそうです。
 小森記者曰く「(経産省は)この分類結果を出したくなかったのだろう。原発回帰のエネルギー基本計画、そして原発の再稼働への動きは、民意の裏打ちを欠いている。」

枝廣淳子氏の新潟県柏崎市での取り組み・原発賛否を超える対話
        
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