p.17-1  食品中の放射性物質に関する指標 ↑前のページへもどる

 日本の食品中の放射性物質の基準値は、『世界で最も厳しいレベル』と書かれています。しかし、これは間違いであったことを、厚労省・復興庁・消費者庁が認めています。
 つまり、ウソだったということになります。

 文科省発行のこの副読本と同じ表が、復興庁2018年3月発行の『放射線のホント』に掲載されています。そして、さらにその出典元は消費者庁の『食品と放射能Q&A』です。
 消費者庁の表には、基準値決定の前提条件が違うので単純に"数値だけを比較することはできません"と断り書きをしていますが、復興庁のパンプレットにも文科省の副読本にもそうした前提に関する言及はありません。

 復興庁の『風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略(2017.12)』以後、住民に"安心"をとどけるべく、なりふりかまわず間違った基準値の表をそのままパンフレット『放射線のホント』に掲載し、さらに、その数値だけを比較して『世界で最も厳しいレベル』というようなあやまったリード文をつけて公表しています。そして、文科省もそれをそのまま受け売りしています。

 これでは、風評対策をしているはずの復興庁が、自ら"風評"を拡散しているようなものです。

 どうしたこんなことが起こったのか、東京のNPO放射線被ばくを学習する会が、厚労省・復興庁・消費者庁を追求した記録からまとめると、つぎのようです。

1、 福島原発事故直後の2011年4月厚生労働省は、“緊急時”の“暫定基準値”を法令化するた めに薬事・食品衛生審議会に諮問したとき、比較のため外国の“緊急時”のデータを参考資料 としました。

2、 翌2012年4月厚生労働省は、緊急時ではない“平常時”の“基準値”を正式決定したのです が、外国のデータを“平常時”のものに差し替えることはありませんでした。

3、 消費者庁と復興庁のパンフレットでは、日本の“基準値”が“平常時”のものになったにもか かわらず、外国については1の“緊急時”のデータを使ったため、日本の“平常時”と外国の “緊急時”とを比較するという頓珍漢が起こり、それが是正されずに今日にいたりました。

4、 とくに飲料水については、米国では飲料水についての独自の基準値が2003年から存在してい たにもかかわらず、1の段階からそれが軽視されました。EUでは2013年に飲料水の基準値が 明確化されましたが、それも2つのパンフレットでは無視されました。

 放射線被ばくを学習する会(代表:温品惇一さん)による
厚生労働省・消費者庁・復興庁の担当者との交渉記録。
(2018年8月11日実施)より

 復興庁のパンフレット『放射線のホント』を監修した"有識者"の責任も重大です。名前を載せている以上、彼らはその地位と名声を利用して、このパンフレットにお墨付きを与えたことになります。

【この冊子(『放射線のホント』)の作成にあたり、お話を聞いた先生】
早野龍五 東京大学 名誉教授
高村 昇 長崎大学 原爆後障害医療研究所 教授
神田玲子 放射線医学総合研究所 放射線防護情報統合センター長
越智小枝 相馬中央病院内科 非常勤医師
一ノ瀬正樹 東京大学 人文社会学系研究科 教授
開沼博 立命館大学衣笠総合研究機構 准教授
箭内道彦 クリエイティブディレクター
熊坂仁美 (株)SML代表取締役
関 奈央子 ななくさ農園
池田伸之 (株)ジェイティイー グループ本社国内事業本部 観光戦略部長

NPO放射線被ばくを学習する会のブログにはこのように書かれています。

(復興庁が『風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略』で目指していることは)
「科学的根拠に基づかない風評被害や差別・偏見が残っている」から、「広く国民に情報発信することにも重点を置く」と書かれています。
 「科学的根拠に基づかない」情報を「戦略的に」、全国民に発信して洗脳しようという「風評払拭戦略」の正体を、広く伝えていきたいと思います。

 厚生労働省・消費者庁・復興庁の担当者が認めた過ちを訂正すると、少なくとも飲料水については、副読本の表は次のようにならなければなりません。
 乳幼児食品・一般食品などは、下段の条件『追加線量の上限設定値』『放射性物質を含む食品の割合の仮定値』に注目しなければなりません。
 『追加線量の上限設定値』は日本とEUは同じ1mSvですので、人体へ追加被ばく線量は、環境の汚染具合を勘案すると同じくらいの被ばくの想定だとわかります。『放射性物質を含む食品の割合の仮定値』ではEUの10%に対して、日本が50%を想定しなければならないと言うことは、日本の方が厳しい環境を考慮しなければならないと言えるでしょう。
 というわけで、単に数字だけ、それも前提が誤った数字を比較して『世界で最も厳しいレベル』などと言うことは、たいへん下手な印象操作に他なりません。『風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略』に引きずられて、科学的根拠を無視した情報発信と言えるでしょう。
 教科書検定で、こんなことを記載した教科書が検定を通ってしまったら、大騒ぎになりますよね。文科省はウソを教えた責任を全国のこどもたちに対してどのようにとるつもりでしょうか。  

        
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