全体(5)  やってはいけないリスク比較  ↑前のページへもどる

 副読本の「放射線量と健康との関係」の項目に次の文章があります。

「100~200ミリシーベルトの放射線を受けたときのがん(固形がん)のリスクは1.08倍であり、これは1日に110gしか野菜を食べなかったときのリスク(1.06倍)や高塩分の食品を食べ続けたときのリスク(1.11~1.15倍)と同じ程度となっています」

 これを読んで、皆さんはどう感じるでしょうか? 「そうか、放射線の影響は野菜不足や高塩分の摂取と同じ程度だから、たいしたことはないのか」という印象を持たせることを意図している記述ですが、皆さんはそのように感じますか?

 しかし、「野菜を食べないとか、塩分の多い食品を食べるとか、それは個人の選択の問題で、それを避けることはできるじゃないか。避けることができない放射線被曝と比較するのはおかしい。」と考える人も多いのではないでしょうか。

 例えば、発がん物質による環境汚染は、それを一生摂取したときに10万人に一人ががんにかかる確率を基準にして規制します。そのくらい厳しい規制をするのは、避けることができないリスクを一般市民に強要することは不法行為なので、行政として規制する責任があるからです。放射線についてだけその考え方を当てはめないのはおかしいのではないでしょうか。

 実は、文科省のホームページに「リスクコミュニケーション案内」という文書があります。農水省のホームページにも「健康に関するリスクコミュニケーションの原理と実践の入門書」という文書があります。その中に、リスクを比較するときに気をつけることがリストアップされています。  それは以下の通りです。


 これは、リスクについて説明される立場の人が、どんな説明をされたら納得しやすいかをランク別にしたものです。

 例えば、福島原発事故のリスクについて、チェルノブイリ原発のリスクと比較するとわかりやすいでしょう。それから、一般市民の被曝限度「年間1ミリシーベルト」と比較するとわかりやすいでしょう。これが第1ランクの「異なる2つの時期に起きた同じリスクの比較、標準との比較」です。「こういう説明なら一般市民は信用するでしょう」ということを言っています。

 ところが、副読本のリスク比較は第5ランクの「関係のないリスクの比較(例えば、喫煙、車の運転、落雷)」にあたります。これは、「こんな説明をすると信用されませんよ」という意味になります。これは不法な環境汚染を正当化する詭弁ではないでしょうか。

 つまり問題は、文科省自身が「こんな説明をすると信用されませんよ」と言っている、やってはいけないリスクの比較を堂々と副読本に掲載しているということです。  こういうことをやっているから原子力推進側は信用されない、ということがわからないのでしょうか。


        
↑前のページへもどる   検証TOP▲