地球温暖化はなぜ起きる? |
産業別二酸化炭素排出量 |
原子力はクリーンなエネルギーか?—原発は「死の灰」を生み出すー |
原子力発電は海を直接温める |
原子力発電所の増加と二酸化炭素排出量はパラレル |
参考資料 |
地球温暖化という言葉を聞いたことがない人はおそらくいないでしょう。テレビや新聞、ラジオなどで毎日のように報道されています。図1に示すように、確かに1970年以後世界の平均気温は一貫して上昇し続けています。この温暖化の原因は何なのでしょうか?これには大きく分けて自然現象と人間の活動が原因になるものとが考えられます。
1) 自然の要因として有力な説としてはミランコビッチ・サイクル、太陽の活動の変化、火山活動、エアゾル等による影響等が挙げられています。
・ミランコビッチ・サイクル(Milankovitch cycle)とは、地球の公転軌道の変化、自転軸の傾きの周期的変化、さらに自転軸の歳差運動という3つの要因により、太陽からの日射量が周期的に変化することを言います。南極の氷床コアを掘削し、南極の気温、二酸化炭素、メタンを34万年前にさかのぼって調べた結果が図2に示されています(東北大学大気海洋変動観測研究センター)。
南極の気温変動と、それに従って二酸化炭素とメタンの大気中濃度が10万年周期で変動していることが分かります。図の黄色い部分が暖かい期間(間氷期)で、その間が寒い期間(氷期)です。間氷期に気温が上がるとそれに伴って二酸化炭素とメタンの温室効果ガスの量も上がります。このガスのために更に温暖化が助長されると説明されています。10万年周期から考えると地球はこれから氷期に向かうと予想されています。これは自然現象ですから、人間活動とは全く無関係です。
2)人間の活動による温室ガスの増加。現在多くの人が温暖化の原因と考えていてマスコミで取りあげています。この温室ガスには図3右に示すように二酸化炭素、メタン、フロン、亜酸化窒素などが含まれます。中でも二酸化炭素の量は図3左に示すように産業革命以後急速に増加しています。米国の元副大統領ゴアが『不都合な真実』を発表してからは特に、二酸化炭素のみが注目される傾向があります。
しかし、上に述べたように地球温暖化の原因は自然現象も含まれ、二酸化炭素説だけで割り切れるものではないことも知っておく必要がありそうです。
この項では一般にいわれているように、二酸化炭素が温暖化を大きく促進していると仮定して話を進めます。二酸化炭素はどのような人間活動から生じるのでしょうか。図4は気候ネットワークのホームページからのデータで、二酸化炭素排出量を産業別に年代を追って調べたものです。長い間排出量が一番多かったのが産業部門でしたが2003年くらいから、エネルギー転換(発電)部門が増加し現在ではトップになっています。次いで運輸部門、業務その他、家庭部門のような順に続いています。エネルギー転換部門の二酸化炭素排出量が増えたのは、石炭の価格が下がったために石炭を多く使用するようになったためです。産業別排出量を円グラフにしたのが図5です。図5—1は「直接排出量」、図5−2は「間接排出量」を表しています。「直接排出」は発電された電力を一括してCO2排出量として計算する方法です。電力はいろいろな分野で使用されますから、使われた部門、例えば、工場、オフィス、家庭等の最終消費部門に振り分けて計算したのが「間接排出量」です。こうすると産業部門、民生(家庭、業務)部門、運輸部門が大きな割合を占めることが分かります。これらの部門で、エネルギーを節約することによって、発電部門の排出量を減らすことができるのです。
図4部門別二酸化炭素排出量(直接排出)の推移(気候ネットワークHPより)
(国立環境研究所温室効果ガス排出インベントリより作成)
図5 産業部門別二酸化炭素排出量(上:直接排出量、下:間接排出量)
(全国地球温暖化防止活動推進センターより)
電力会社の広告や学校に配布される教材では、「原子力発電は二酸化炭素を出さない。だから原子力はクリーンなエネルギー」といっています。これは本当でしょうか?
実際は原子力発電でも二酸化炭素は排出します。なるほど熱を出す核反応の部分だけは二酸化炭素を出しません。しかし、核燃料の材料になるウランを掘り出すところから始まり、ウランの濃縮、精製、燃料に固めるまで(「少しの燃料で大きなパワー」というけれど、参照)、使い終わった燃料を何十万年という長い間冷やしておく期間(使用済み燃料の処理・処分参照)などの段階で二酸化炭素を出すのは明らかです。また、使用済み燃料を安全に管理することができるのか、冷却にどの位のエネルギーが必要なのかは予測できません。
原発は化石燃料に比較して二酸化炭素の排出量は少ないかもしれません。しかし、化石燃料が絶対に出さない核分裂生成物である「死の灰」を生みだします。日本には現在55基の原子力発電所があります。これらの発電所から毎年生み出されている死の灰の量は、広島型の原爆約50,000発分に相当します。それらの死の灰は原子力発電所の敷地内のプールでズーと冷やされ続けています。この冷却装置に故障が起きると燃料が溶けて大変な事故になります。柏崎・刈羽の地震の時に冷却プールの水が漏れて周囲が汚染され騒がれました。冷却水が少し漏れただけでも大問題になるのです。この死の灰を生物に被害が及ばないように処分する方法を、今のところ世界中の誰も知りません(トイレ無きマンション参照)。このような原子力発電のどこがクリーンなエネルギーなのでしょうか
原子力発電所は日本では必ず海のそばにあります。何故でしょうか?それは、余分な熱を海に捨てるためです。原発で発生する熱(すなわち核分裂で発生する熱)の2/3は温排水として海に捨てられ、発電に利用される熱はわずか1/3にすぎません(図7)(原子力発電の原理参照)。原子力発電所では、海に捨てられる熱が実際に使われる熱の2倍にもなるのですから、原発の主要な働きは海温め装置であるとも言えます。では原発は海水をどの位温めるのでしょうか?標準的な原子力発電所は1分間に70から100トンの海水を冷却水としてくみ上げ、温排水として海に戻します。55基の発電所から流される温排水は1年間で約1000億トンに達します。原発はこの水を7度温めて海に戻すことになります。日本の全河川の水量は4000億トンと計算しますと、全ての川の水を約2度程度上げて海に流すことに相当するのです。
図6 原発の主要な働きは海を温めること
電力会社がいうように原子力発電を増やしていけば二酸化炭素排出量が減少するのでしょうか?図7は原子力発電の設備容量の増加と二酸化炭素排出量の増加の関係を示したものです。この図からハッキリ分かるように原発を増やしても二酸化炭素排出量は減少するどころかかえって増えています。何故でしょうか?
電気の使用量は季節や時間帯によって変化します。しかし、原発は水力発電や火力発電のように、電気の必要量に応じて発電量を調節すること(出力調整)ができません。それで、いつも年間で一番電気を使う時間に合わせた量を発電し続けようとします。(電力のつくり過ぎと原発)需要がないときでも作った電気はためておけませんから、電力会社は安くしてもこれを売ろうとします。夜間電力をダンピングした「お得なナイトテン」「エコ給湯」「IHを使ったオール電化住宅」「揚水式発電」など様々な余剰電力の使い道が考えだされています。明らかにこれらは節電、省エネとは逆行します。従って、原子力発電所の数が増えれば増えるほどエネルギーを使うように奨励され、社会全体としては大量エネルギー消費型社会になってしまうのです。原発を増やしても二酸化炭素の削減にはならないことが理解されたでしょうか。
ミランコビッチ・サイクル http://ja.wikipedia.org/wiki/
東北大学理学研究科帯機械用変動観測研究センター物質循環分野
http://tgr.geophys.tohoku.ac.jp/index.php?option=com_content&task=view&id=26&Itemid=44
環境省 http://www.env.go.jp/earth/ondanka/kokumin/
IPCC第4次報告
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/ipcc/ar4/ipcc_ar4_wg1_spm_Jpn.pdf
全国地球温暖化防止活動推進センター
http://www.jccca.org/content/view/1730/900/
http://www.jccca.org/content/view/1046/786/
地球温暖化問題の本質 小出裕章
http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouen/crisis.pdf
『原子力神話からの解放』 高木仁三郎著 光文社カッパ・ブックス 2000年