電力を捨てる「発電所」 揚水式発電
〜〜「ベストミックス」というけれど〜〜
「ベストミックス」とは
揚水式発電所は原発の付属施設
電気の捨て場・・・・揚水式発電所の出番
揚水式発電所の使命は、電気を消費すること
建設費用の具体例
電力政策の問題点 インデックス

 

「ベストミックス」とは

 電力会社の発電方針は、いわゆる「ベストミックス」ということをうたっています。前出のグラフ1やグラフ3のように、刻々と変わる電力使用量に応じて、地熱・流入式水力・原子力・石炭火力・LNG火力・石油火力・揚水式水力などの発電方法を組み合わせるといういうものです。このうち、地熱・流入式水力や原子力はベース電力とされ、常時定格出力で運転されています。昼と夜とで大きく変わる電力消費に対応するため、その他の発電方法が利用されています。これを負荷追従運転といいますが、なかでも各地に建設されている揚水式発電所は、わずか数分で発電量を上下させられることから、負荷追従運転にもっとも適した発電というように最近は宣伝されています。
 しかし、原発に偏重した現在の体制は、このベストミックスのしくみにもゆがみを生じさせています。

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揚水式発電所は原発の付属施設

 そもそも、揚水式発電所はどうしてつくられるようになったのでしょうか。
全国に42か所(2000年9月現在)、1,472.4万kw分の揚水式発電所が建設されています。そもそも揚水式発電所は、必ず原子力発電所と対になって建設されているもので、揚水式発電所の建設費用は、原発建設の必要経費の一部といってもいい性格のものです。実際、揚水式発電所がなければ、余剰の夜間電力を"捨てる"場所がなく、原発の運転に支障を来すからです。
 最近は、揚水式発電所が原発に必ず併設されていることを、電力会社は一般向けの説明では認めたがりません。もし、原発に必要不可欠のものとなれば、原発の建設コストに揚水式の発電所の建設費用を含めて当然ということになってしまい、原発推進の根拠である経済的優位性をおびやかす、不利な材料になるからです。しかし、昔は堂々と原発に不可欠のものであることを説明していました。

参照:大釜クラブHP中部電力奥美濃水力発電所建設についてのパンフレット1979年
http://www.geocities.jp/ogamaclub/shosai/genpatu.html HPは2006.7.閉鎖されています。

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電気の捨て場・・・・揚水式発電所の出番

 どんなときに余剰電力が生まれるかは、「電気のつくり過ぎと原発」を参照してください。電力会社の言ういわゆる「ベストミックス」による発電方式でも、現在原発の比重が大きくなりすぎて、電力が余ってきてしまいます。
 余剰電力を使い尽くす最後の切り札として、登場するのが揚水式発電所です。
 揚水式発電所というのは、次のような仕組みです。このリンクページを見てください。関西電力が兵庫県神埼郡に建設した大河内発電所のホームページです。原理は、下図のように山の上と下に二つのダムを造り、昼は上のダムから下のダムに水を落として、その力で発電をします。夜は逆に、原発などの余剰電力を、昼間発電機として用いた水車に送り込んでポンプとして用い、下のダムの水を上のダムに汲み上げて貯水し、昼間の発電に備えます。
 上部ダムの水が下のダムから汲み上げた水だけであれば「純揚水式」、上部ダムにその上流から河川が流れ込んでいれば「混合揚水式」と分類されます。
 揚水式発電所の発電能力はきわめて大きく、全国の水力発電所の能力のランキングを作成すると、上位23位までは揚水式発電(混合揚水式含む)が占めています。あの有名な黒部第四ダムを使用する黒部第四発電所は33.5万kwで29位、無名に近い岐阜県本巣市(旧根尾村)の奥美濃発電所(2位)でも黒部第四の4倍以上150万kwの出力を持っています。ちなみに世界最大の揚水式発電所は東京電力神流川発電所で282万kWの出力があります。
  関西電力大河内発電所HP http://www.kepco.co.jp/pr/okawachi/damdamoh.htm
  神流川発電所HP http://www.tepco.co.jp/gunma/kanna-gawa/11_0-j.html

 揚水式発電所がどうしてこれほど出力が大きいかというと、落とす水量が桁違いだからです。奥美濃発電所がフル稼働のときは234�/秒の水を落としますが、それを下池(上大須ダム)で受けるからよいものの、そのまま下流へ流せば大洪水になります。例えば7月から9月までの期間、月曜から金曜までの1日について運転パターンを見ますと、揚水時毎秒約190トンの水を揚げ、発電時毎秒約234トンの水を落としています。ダムの水位は一日のうちに約30メートル上下します。黒部第四ダムの総貯水量は14884.3万�ですが、川浦ダムの総貯水量はその12%弱、1720万�で有効貯水量は900万�です。発電・揚水でダム湖の水の52.3%を上げ下げするのです。ですから、揚水式発電所の発電時間は最大で8〜10時間です。後は、電気を使って水を揚げなければ、発電できません。まさにマッチポンプ式発電所です。 

参照:大釜倶楽部HP http://www.geocities.jp/ogamaclub/index.html より引用 HPは2006.7.閉鎖されています。

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水式発電所の使命は、電気を消費すること

 発電能力が大きいということは、それだけの電力が必要だからというわけではなさそうです。夏の昼間の電力消費ピーク時にできるだけ大きな電力を瞬間的に供給する必要はたしかにありますが、そうした発電能力としてよりは、その発電機をポンプとして用いたときの能力が大きいことが揚水式発電所には必要条件なのです。つまり、原発の余剰電力を余すところ無く使い切るためにできるだけ一度に大量の電力を消費する必要があります。ですから、"発電能力"も大きくなるのです。
 揚水式発電の問題を考えるときには、そこに投入された電力と、発電電力の割合も問題になります。揚水式発電所は電力を使って電力をつくる、別名「"電力 "発電所」ともいわれます。あるいは、非常に効率の悪い「蓄電池」ということもできます。おおむね、エネルギー効率は、揚水につかった電力に対して70%といわれていま
す。元々の原子力発電のエネルギー効率が約35%といいますから、これらの数字から計算すると、揚水発電のエネルギー効率は35%?70%=24.5%ということになります。しかし、電力会社にとって、原発を維持するためには、効率をあげることや、エネルギーを節約することは二の次で、ともかくも余剰電力を使い切ることが大切なのです。
 また、揚水式発電所の建設コストや、電源別の発電容量コストなど、統計上は、水力発電に分類されています。揚水式発電所独自のデータは公表されていません。中部電力が2001年に水力発電と揚水式発電とをわけたデータを公表したそうですが、翌年からまた公表されなくなったそうです。

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建設費用の具体例


 岐阜県藤橋村に建設予定であった国内最大級の徳山ダム・杉原ダムの建設費用で計算すると、ダム建設総体とは別に発電所建設費用のみで費用総額は約1,551.8億円。計画出力は42.4万kwですから、発電容量コストは1kwあたり約36.7万円となるはずです。

(2000年7月11日衆議院議員石井紘基君提出徳山ダムによる発電に関する質問に対する答弁書
http://www.osagashitai.com/kouzoukaikaku/kouki/situmon-touben/touben00-07-11.htm より作製)

 一方、資源エネルギー庁は、揚水発電としての妥当な開発費の上限は20万円/kw程度としているようです(2000年3 月10日の国会答弁より)。徳山ダムに設置される発電所の建設費用があまりにも高いことを指摘されましたが、政府の答弁は「徳山発電所は混合揚水式であり・・・・・徳山発電所の電源開発単価と、純揚水式発電所の電源開発単価を単純に比較することは適当ではないと考えている。また、徳山発電所及び杉原発電所の両発電所は、中電による平成二十年度(��)以降の電力の供給に必要なものであり、両発電所を建設する意義は十分あるものと考えている。」(内閣総理大臣森喜朗 内閣衆質一四八第七号2000年七月十一日)というものです。
 ちなみにこのダム計画は2004年4月、大幅な計画変更が承認され、下につくられるはずであった杉原ダムは建設中止になり、従って揚水式発電は消滅、発電出力も大幅に計画縮小され計画出力は15.3万kwになりました。発電コストはいくらになるのか不明です。
 要するに、将来の電力供給のために意義を認めればいくら高くても良いということなのですが、普及の必要性が同じように叫ばれている風力などの新エネルギーにこれだけのコストをかけることが出来れば、新たなエネルギー源として十分対抗できるのではないでしょうか。

 前述の国会答弁で政府が資料に使った資料によると、電源別の発電コストはつぎのようです。

自流式一般水力 75.7万 住宅用太陽光   95万
LNG火力   20.3万 公共施設用太陽光 110万
石油火力    28.4万 自家用風力     30万
石炭火力    30.3万 事業用風力     22万
原子力     29.1万 天然ガスコジェネ  30万
1999年総合エネルギー調査会
原子力部門
「原子力の経済性について」
2000年総合エネルギー調査会
新エネルギー部門
「新エネルギーの潜在性と経済性」

 これらの数字から見ると、資源エネルギー庁のいう「揚水発電としての妥当な開発費の上限は20万円/kw程度」というのは、かなり安いということが言えます。徳山ダムの場合があまりにも特殊なのかもしれませんが、揚水式発電を原発本体の建設費にプラスして考えた場合、コストを押し上げる要因になることは間違いないでしょう。
http://www.monjiro.org/tokusyu/yosui/top.html全国揚水発電所地図 中村敦夫議員のHP
(現在HPには、資料は載っていません。)

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電力政策の問題点 インデックス