教員用 p.16 集団実効線量について
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 ここにICRPの2007年勧告(Publication103)の引用がある。「特に大集団に対する微量の被ばくがもたらす集団実効線量に基づくガン死亡数を計算するのは合理的ではなく、避けるべきである。」という記述は、この副読本のこの直前の記述とまっこうから矛盾しているが、この副読本の編集者はそのことに気づいていないらしい。
 すなわち、この前の段落の枠囲みの中で、「仮に蓄積で100mSvを1000人が受けたとするとおよそ5人がガンでなくなる可能性があると推定している。 日本では約30%の人がガンでなくなっているので、この推定を用いると1000人が数年間に100mSvを受けたとすると、ガンによる死亡がおよそ300人から305人に増える可能性があると推定される。」という部分について、このような計算の仕方は避けるべきと言うというのが2007年勧告の主旨である。

 なぜ、このようなちぐはぐな記述がここに見られるのか。ICRPのこの前の大きな勧告は1990年に出されたPublication60である。これを受けて日本の国内制度が整備されてきていたが、2007年勧告については、福島原発事故直前の2011年1月に放射線審議会基本部会が 第2次中間報告を出し、国内制度改定の方向性をようやく示したところである。

 従って、日本の諸制度はまだ、2007年勧告をきちんと消化していない。ましてや、この副読本の編集者である中村尚司東北大名誉教授らは、LNT仮説についてなど、ICRPとも見解を異にする。そういう中で福島原発事故が起き、旧態依然の発想のままこの副読本が制作されたのではないかと私たちは推察する。

 ICRP2007勧告(日本語訳)には、次のように述べられている。
『約100 mSVを下回る低線量域では,がん又は遺伝性影響の発生率は、関係する臓器及び組織の等価線量の増加に正比例して増加すると、仮定するのが科学的にもっともらしい。それは、例外はあるが、線量反応データーと基礎的な細胞過程に関する証拠によるものである。したがって,委員会が勧告する実用的な放射線防護体系は次の根拠に基づく。約100 mSVを下回る線量においては,ある一定の線量の増加は、それに正比例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるという仮定である。この線量反応モデルは一般に“直線しきい値なし仮説又はLNTモデルとして知られている。LNTモデルを採用することは,線量・線量率効果係数(DDREF)について判断された数値と合わせて,放射線防護の実用的な目的,すなわち低線量の放射線被ばくのリスクの管理に対して根拠を提供している。LNTモデルは実用的な放射線防護体系において、引き続き科学的な説得力があるが,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的あるいは疫学的知見は、すぐには得られそうもない。すなわち、低線量における健康影響が不確実であることから,委員会は,公衆の健康を計画する目的には長期間にわたり多数の人々が受けた、ごく小さい線量に関連するがん又は遺伝性疾患について、仮想的な症個数を計算することは、適切ではないと判断する。』

 つまり、低線量被ばくにおいては、被ばく量からそれによる障がいの発生数を予測するには、現時点ではデータ不足ということ。しかしだからといって、障害が発生しないわけではない。



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