生徒用p.1 はじめに ↑前のページへもどる

 「東日本の一部の地域で水道水や食べ物などを飲んだり食べたりすることを一時的に止められたことがありました・・・」 
 この表現は、事故はもうすでに過去のこととして記述しています。福島原発事故の影響をできる限り小さく見せようとする意図が働いているのではないでしょうか。この副読本が発行されたのは、事故の起きた年の11月頃です。事故の影響はまだまだはじまったばかりです。


生徒用p.3 放射線って、何だろう? ↑前のページへもどる

 この写真は、スイセンに含まれているカリウム40の放射線を写したものだそうですが、 いま東日本でこの実験をやったらもっとくっきりはっきりと写るはずです。なぜなら福島原発事故で、大量に放出された放射性物質は、東日本を中心に広範囲にふりつもっていますので、おそらくほとんどの植物に水を通じて吸収されているはずだからです。 現在、このような実験をすると、自然のカリウム40による放射線だけでなく、セシウム134・137など人工の放射性物質による放射線も感光して区別がつかないのではないでしょうか。
 それほど広範囲に、大量に放射性物質が拡散している現実があり、そのことを指摘したほうが、放射線を身近に感じることができるはずです。



最初に子どもたちに放射線について語りかけるのに、福島原発事故のことに何も触れず、スイセンの花のことなどを取り上げています。このことから、この副読本の目的がおのずと明らかになってきます。
 今なぜ放射線のことを子どもたちが知らなければならないかというと、福島原発事故で東日本を中心に大量の放射性物質が拡散して、その脅威から子どもたちの健康を守るために、放射線の知識が必要なのでは無いでしょうか。
 この副読本を編集した人たちは、放射線の利用を進めるためにこの副読本を作っているようです。それは、放射線や原子力を利用する産業を守るためでもあります。でも福島原発の事故後の現在となっては、条件が変わってくると思うのです。事故についての反省をしっかりと踏まえた上で、放射線から私たちの暮らしをどう守るか、原子力をどのように利用するか、みんなで話し合って考えていかなければならない問題です。 


生徒用p.4 偶然から発見された放射線 ↑前のページへもどる

 この実験で使われていたのは、右写真のようなクルックス管と呼ばれる放電管です。学校の理科室などでもこの実験装置を見かけることがありますが、レントゲン博士が実験で確かめたように、そこからは放射線の一種X線(ガンマ線)が出ているので注意が必要です。
 レントゲン博士は、最初の発見から7日間研究室にこもってX線に関する論文を書き上げ、発表したとこのとですが、その間やその後の生涯にわたり、かなりの量の放射線被ばくをしているはずです。しかし、まだ、放射線の量の単位や、その身体への危険性も知られていなかった時代ですので、レントゲン博士の被ばく量はわかりません。博士は1923年にガンで亡くなっています。



生徒用p.5 身の回りの放射線 ↑前のページへもどる

生物と放射線は共存できません!!
   身の回りに放射線が昔からあったとしても、生物にとって放射線が必要なものではなく、基本的に放射線は生き物に対して害になるものです。

■自然放射線って何?
 原子爆弾や原子力発電所から出る放射線とはちがい、人間が作りだしたのではない放射線を 自然放射線といいます。その中には宇宙や太陽や地中からでてくる放射線や食べ物の中にある物質がだす放射線がふくまれます。そのために「生き物は地球上に誕生したときから放射線を受けている」という説明よく聞きます。
 この副読本の説明も、「放射線は今初めて接するものではなく、自然の中に元々あるものだから、何も怖がることはない」ということを言いたいようです。  でも下の図を見てください。この図は、地球が誕生してから現在まで、地球にふりそそぐ宇宙からの放射線(宇宙線)や紫外線(しがいせん)と、地球の生き物の関係をえがいたグラフです。



 図中A :生命が生まれたのは生物に害をあたえる宇宙線がとどかない深い海の底でした。

 図中B :生物が浅い海でも生きられるようになったのは、地球上にふりそそぐ宇宙線をふせぐバリアー( ヴァンアレン帯)ができた後でした。放射線が命に危険にならないくらい少なくなったからです。

 図中C :海の中に酸素を作り出す細菌さいきんが生まれると、大気中にたくさんの酸素がたまりオゾン層ができました。植物や動物が海から陸に上がって生きられるようになったのはこのオゾン層が命に危険な紫外線を防ぐようになったためです。

このようにみてみると、生き物は放射線の害がすくなくなり、命に害をあたえない場所にひろがっていったことが分かります。
 今も私たちが自然の中で浴びている放射線の影響で、わたしたちはガンになったり、その他の様々な影響を受けているのです。


生徒用p.5 身の回りの放射線 ↑前のページへもどる

 食べ物の中に含まれている放射性物質には、カリウム40という物質があります。このカリウムは確かに人間の体にも欠かせない栄養素ですが、放射性カリウム40が、欠かせないわけではありません。放射性のカリウム40は、できれば食べない方がいい物です。
 このような身の回りの放射性物質が原因で、遺伝子が傷つき、人間はがんになったり、白血病になったりしているのです。さらに、人工の放射性物質を、カリウム40などのような自然にある放射性物質以外に余計に取り込む必要はまったくありませんから、人工放射性物質は環境中にない方がいいのです。
 この部分の記述のように、放射性物質がいくら身の回りにあったとしても、それが人間の体には「無用」であるばかりか、基本的に「有害」であるはずなのに、ただ身の回りに「多く存在」していて、「無害」であるかのような印象を読む者に与えようとしている記述があちこちにあります。放射線・放射性物質に対する心理的な障壁をできる限り取り除いて、放射線・原子力への親しみやすさを養おうとする意図がミエミエですので、注意が必要です。


生徒用用p.6 放射線って、どんなもの? ↑前のページへもどる

 ここで書かれている放射線の「もの」を通りぬける働き=透過作用に関して、物質を透過するときに、ただ透過するだけではないことを指摘する必要があります。とりわけ、生物の体を透過するときには、生物の遺伝情報であるDNAを傷つけたりして、生物にがんなどの障害を引き起こすことがあることの説明が不足しています。根本的な認識として、放射線が生命に対して有害であることを説明しておくべきではないでしょうか。

 放射線がDNAを傷つけるのは、そのエネルギーがDNAの化学的結合エネルギーよりも、桁違いに大きいからです。 詳しくはこちらを。


生徒用p.6 光と同じように放射線も身の回りにあります ↑前のページへもどる

 放射線・放射能をどうして身近な存在として理解しなければならないのか、その意図が問題です。小学生が持つべき認識は、基本的に放射線は生き物にとっては危険で、身の回りの放射線は少ないほどよいという認識のはずです。この副読本で文科省とその編集者が意図していることは、放射線は身の回りにあふれているから、恐れることはない、という認識でしょうか。何故、文科省が小学生たちに放射線に慣れ親しんでほしいのでしょうか? 原子力開発を推進するために、放射線への恐怖を取り除き、放射線を「日常のこと」として受容して、原子力への理解を深める、という理由以外にはあり得ないのではないでしょうか。
 しかし、福島原発事故以来、たしかに放射線は「身近なモノ」になりました。福島原発からまき散らされた放射能により、東日本のほとんどの地域で放射能は「身近」になってしまいました。そのような状況の中で、子どもたちの「放射線や放射性物質に対する理解」はどのようにあるべきか。それは当然、放射線・放射性物質の危険はどのようなもので、被ばくを避けるためにはどうしたらよいかということを知るためであるべきではないでしょうか。



生徒用p.7 ものを通り抜ける働きを利用 ↑前のページへもどる

 皆さんはお医者さんにかかったときにレントゲン写真をとられたことがあるでしょう。日本にいる人でレントゲン写真を一度もとられたことがない人はまずいないでしょうね。
 日本のお医者さんはレントゲン写真をすぐにとりたがります。簡単に撮影できるし、簡単に診断ができるからでしょう。でもそのために日本人が医者の診療などによって放射線を浴びている量は世界でダントツの1位です。
 日本人の医療被ばくを世界で一番にしている大きな原因はCT検査です。お医者さんが安易に行うCTなどにたよる医療行為が問題になっています。CT検査による被ばく量は、一般人の年間被ばく限度量1ミリシーベルトをはるかに上回り、1回で5〜8ミリシーベルトの被ばく量です。放射線被ばくによるデメリットと、治療に役立てるメリットをよく考えて利用することが大切です。



生徒用p.8 放射線の利用いろいろ ↑前のページへもどる

 放射線の利用については、とても内容が充実している。でもいま、小学生にとって必要なことは、このような「放射線の利用」について、理解を深めることでしょうか。
 福島原発で大勢の人々が被ばくし、高レベルの放射線汚染により、今後数十年間故郷に戻ることが出来ないようになってしまいました。このような放射線の有用性を説くのは、原子力にあこがれてその研究・開発を目指す児童生徒が一人でも残るように、原子力産業の最後のあがきのようにも見ることが出来ます。

 日本でどのようにしてこのような放射線の研究利用が盛んに行われるようになってきたのでしょうか。そのいきさつを見てみましょう。
 日本で原子力の開発が始められた1950年ごろ。広島・長崎の原爆投下により、核・原子力開発に関して日本人は「怖いもの」「おそろしいもの」というマイナスのイメージをもっていました。このイメージをふきとばすために、初代科学技術庁(当時)長官に就任した正力松太郎氏が、その経営する新聞・テレビ(読売グループ)を中心に、日本のマスコミ界を総動員して、原子力技術のバラ色のイメージをひろめるために『原子力の平和利用"Atoms for Peace"』の一大キャンペーンを展開したということです。各地で「原子力博覧会」が開催され、「原爆」と「原発」はちがうものだとして原水爆禁止運動の関係者も、原子力の平和利用に期待を寄せたそうです。
 当時の情景に、現在のこの文科省の活動が重なって見えます。ちなみに、政界で原子力開発の旗振りをし、日本で初めての原子力予算を提案したのは中曽根康弘氏です。その科学技術庁というのは、そもそも原子力開発を担うための創設された組織であり、その開発の中核は、今日の高速増殖炉「もんじゅ」に引き継がれている、核燃料サイクルです。現在の文部科学省はその科学技術庁と文部省が統合(2001年)されて出来ています。ですから、この放射線副読本でも、放射線の効用をうたう内容がこれだけ充実しているのです。
 しかし、今回の福島原発事故を契機に、これまでの原子力開発そのものを見直す時期に来ています。しかし、そのことを文科省は理解していないし、しようともしていないように思われます。
ただし、今後も原子力・核関連の技術は必要です。ですが、それは、これだけの被ばくがもたらされたことの後始末や、また各地の原子力発電所やその関連施設の後始末と、おそらく、十数万年は管理し続けなければならない核廃棄物の安全で確実な管理のためでしょう。そうした方向性をきちんと持つべきではないでしょうか。



生徒用p.8 放射線を出すものと放射線 ↑前のページへもどる

 放射能という言葉は、基本的には「放射能を出す能力」のことで、放射能を持った物質を「放射性物質」といい、そこから放出されるのが「放射線」です。
 放射線は、光のように飛び出していきますが、光と違うのは、目に見えず、人間の体など、ものを突き抜けるはたらきがあることです。そして、ものを突き抜けるときに、その細胞などの組織を破壊して、将来ガンになったりする可能性を残すことです。

■言葉の使い方:
「このものには放射能がある」=「このものは放射線を出す能力がある」
               =「これは放射性物質である」
「私は放射能を浴びた」
           =「私は放射線を浴びた(放射線で被ばくした)」



生徒用p.9 コラムA 放射性物質を取り出した人 ↑前のページへもどる

キュリー夫人のラジウム発見は、偉大な業績です。放射線や放射性物質の発見の歴史は人類に大きな飛躍をもたらしました。しかし、その発見の影には、発見に関わった人たちの被ばく被害があったことも、事実として忘れてはならないことです。最初から放射線の害がわかっていたら、もうすこし歴史の道筋は変わっていたかもしれません。もっとも、当時の科学者たちはもし害だとわかっていても、そんなことを意に介したりしなかったかもしれません。
 Wikipediaによると、キュリー夫人の実験室や、書籍などの遺品からも、未だに強い放射線が検出されるとのことです。発見家たち本人の被ばくはどれほどになったでしょうか。キュリー夫人は晩年、放射線被ばくによってよく引き起こされる、再生不良性貧血に苦しめられたそうです。
現在の私たちは、そうした放射線の功罪を知っているはずですから、放射性物質をできる限り避ける暮らしを考える必要があります。



生徒用p.10 放射性物質の変化 ↑前のページへもどる

 ここで説明されているのは、放射性物質の半減期についてです。例では、半減期が8日のヨウ素131 I 131 が扱われていますが、半減期には様々な長さがあります。数百万分の一秒以下のものもあれば、原子力発電所の使用済み核燃料に含まれるストロンチウム90 Sr90 は29年、プルトニウム239 Pu239 は2万4千年です。
  放射性物質はその半減期の10倍くらいの期間が過ぎれば、その放射能の影響を考えなくてもいいようになるといわれています。プルトニウム239の場合、24万年もの間、放射能を持ち続けるということになります。
 また、いま福島原発から放出されて環境中に拡散されたセシウム137は、半減期が30年ですから、およそ300年間はその影響が消えないことになります。
 詳しくは教師用p.●●のコメントを参照。




生徒用p.11 放射線を受けると、どうなるの? ↑前のページへもどる

 「・・・こうした放射線の影響を受けた方々の調査から、どのくらいの量を受けると人体にどのような影響があり、どのくらいの量までなら心配しなくてよいのかが次第にわかってきています。」という記述がありますが、広島・長崎の被爆者の調査では、原爆投下直後の爆発による直接の放射能の影響だけが調査され、その後の長期にわたる内部被ばくについては、ほとんど調査がされていないといわれています。
   澤田昭二氏の論文はこちら:

 また、私たちが過去のデータを集めて調べたところによると、世界には この地図 に示すように、おびただしい数の放射線被ばく事故が起こっています。しかしそのほとんどが軍事機密や国家利権などの壁にはばまれて、事故の概要をはじめ、詳細なデータはほとんど知られていません。
 つまり、原子力や放射線にかかわる事故は、まさに軍事機密であり、国家にとって莫大な利権のからむ重要な機密事項なのです。ですから、放射線による人体への影響に関しては、ほとんど研究が進められていない、というよりむしろ研究が阻害、ないしは機密にされていると言ってもいいかもしれません。
 また、「どのくらいの量までなら心配しなくてよいのかが次第にわかってきています。」という言い方は、放射線にはこれ以下なら安全ですという、いわゆる 「しきい値」があるというような言い方ですが、放射線には「これ以下なら安全」という考え方は、 ICRP(国際放射線防護委員会)をはじめ国際的な様々な機関の考え方にもありません。 放射線被ばくには「しきい値」はありません。
 放射線被ばくによる人体への影響は今でもわからないことが多いのです。

 詳しくは教師用p.●●のコメント参照。


生徒用p.11 放射線・放射能の単位 ↑前のページへもどる

 こどもたちだけでなく、一般の大人たちに説明をするときでも、 いちばん理解してもらうのがむずかしいのが、この「単位」です。  ベクレルに関しては、例えば、日本の食品の新基準値(2012年4月より) ではほとんどの食物の基準が1kgあたり100ベクレルで、 これは、WHOの基準が10ベクレル/kgに比べると10倍も甘い基準です等、 というように、具体的に例をあげて説明した方がよりわかりやすいと思われます。
 また、シーベルトに関しては放射線管理区域という、 一般の人が立ち入りを禁止されている場所は、 「毎時0.6マイクロ・シーベルト」です、というような、 具体例が必要です。

    1000マイクロSv=1ミリSv  1000ミリSv=1Sv

    1マイクロSv=1000分の1mSv=百万分の1Sv


           μ:マイクロ  m:ミリ

  ちなみに、1年間の一般人の許容線量は、1mSv/年=1000μSv/年 です。
   1年間= 365日 × 24時間 = 8760時間 
   1000μSv/年 ÷ 8760時間 = 0.11μSv/時 
            ということになります。

  このことから、一般人の許容線量は およそ 0.1μSv/h(時)となります。


生徒用p.12 自然界から受ける放射線量 ↑前のページへもどる

 この数値は、福島原発事故の前の日本の状況です。いま、東日本の多くの場所で、これよりも放射線の量が多くなっています。
 また、たいていの資料では、世界の平均にくらべると、自然から受ける放射線の量は日本での被ばくの方が少ないことになっています。(世界の平均は2.4mSv/年) しかし、これも福島原発事故の影響で世界平均よりも放射線量の高い地域が日本には多くあらわれています。
 また、小学校教師用の解説書p.17にあるグラフ(右図)を見ると、自然放射線は日本の方が少ないのに、人工放射線すなわち医療被ばくのせいで、日本の方が合計の被ばく量が多くなっています。
 医療被ばくの問題については、
 教師用p.●●のコメントを参照してください。


生徒用p.12 身近に受ける放射線の量と健康  生徒用p.7と同じ ↑前のページへもどる

 皆さんはお医者さんにかかったときにレントゲン写真をとられたことがあるでしょう。日本にいる人でレントゲン写真を一度もとられたことがない人はまずいないでしょうね。
 日本のお医者さんはレントゲン写真をすぐにとりたがります。簡単に撮影できるし、簡単に診断ができるからでしょう。でもそのために日本人が医者の診療などによって放射線を浴びている量は世界でダントツの1位です。
 日本人の医療被ばくを世界で一番にしている大きな原因はCT検査です。お医者さんが安易に行うCTなどにたよる医療行為が問題になっています。CT検査による被ばく量は、一般人の年間被ばく限度量1ミリシーベルトをはるかに上回り、1回で5〜8ミリシーベルトの被ばく量です。放射線被ばくによるデメリットと、治療に役立てるメリットをよく考えて利用することが大切です。



生徒用p.13 放射線はどうやって測るの? ↑前のページへもどる

 今、東日本の学校で、放射線測定器で線量を測定すれば、ほとんどの学校で、驚くような数値が観測されるはずです。この副読本では、そのことに全く触れていないで、「石碑の周りで測ると高くなる」などと福島原発事故前と何ら変わらない脳天気な内容になっています。もちろん、観測されるのは、福島原発から放出された放射性物質による放射線量です。
 とりわけ、雨どいや雨水ますなど、雨などが集まりやすいところで、高線量が観測されるはずです。学校敷地内ならば、体育館の大きな屋根の雨水を集める集水ますなどは、必ずといっていいくらい、高線量のはずです。集水ますに溜まった、土砂などが高線量の原因なので、それらを定期的に除去したり、高圧水で洗浄したり、除染作業が必要な場所があちこちにあるはずです。これは、なにも学校だけに限りません。民家や、民間の建造物でも、あちこちで高線量が観測されるはずです。花こう岩や、湯の花、マントルなど、特殊なものを用いなくても、環境中のあちこちに福島原発由来の放射性物質が溜まっているはずです。
 このような現実に目を向けさせない放射線の扱いは、いったい何の役に立つのでしょうか?



新潟県十日町のHPより
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生徒用p.13 簡易放射線測定器の活用 ↑前のページへもどる

 今、大きな電気店や、通信販売でも数千円から簡便な放射線測定器が購入できますから、もっと実用に即した説明があっていいように思います。児童生徒の家庭では、そうした自前の測定器をもっている家庭があるはずで、現実はもっと先へ進んでいます。

■10万円以内で購入できるクラスの測定器について注意事項。
 このレベルの測定値にばらつきが多い。機会があれば、一度は高額・精密な測定器と比較して、測定値の傾向を把握することをお勧めします。簡易型の機器は、相対的な線量の目安として用いるとよいでしょう。例えば、A地点よりB地点の方が線量が高いとか、昨日より今日の方が線量が高いとか、測定値を比較することで、高線量が観測されたら、より精密な測定器で再測定するようにすればよいと思います。

 食品の測定に用いられる検査機は、このところずいぶんと価格も下がり、機種も豊富になってきました。数分から、長くても数時間で測定できるものが多く登場してきました。  気をつけなければいけないことは、測定限界値です。一般に高価な機器ほど、また時間をかけるほど測定限界値は小さくなりますが、測定限界値以下(ND)だからといって、安心できるとは限りません。



生徒用p.14 放射線が通った跡を見る。 ↑前のページへもどる

 放射線が通った跡を見ることができる実験装置が「霧箱」という実験器具です。文部科学省が全国の高校などに「エネルギー(原子力)教育予算」としてつけた予算では、必ずこの実験器具を購入するように指導がされていました。一台70〜80万円もする実験器具ですが、ほとんどの学校では、年に一度使うか使わないかで、実験室の隅っこでほこりをかぶっています。
 次の東京新聞の記事を参照してください。


生徒用p.14 普段から放射線の量を調べる ↑前のページへもどる

 福島原発事故の際には、周辺の放射線の値が、避難している人々に伝えられなかったことが問題です。文科省が毎年数億円の予算を使って整備してきたという「放射性物質拡散予測システムSPEEDI (緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)」が、シミュレーションをしながらも、そのデータを公表しなかったりしたことの責任はどうなっているのでしょうか。
 副読本のここの部分に書かれているように、日常時には「その情報は公開されてい」るのでしょうが、それが事故の時になぜ周辺の人々に伝えられなかったのか、東京電力・文部科学省どこからもきちんとした反省のことばが発せられていません。それで、いくらこのような「日常時のシステム」があるからといっても、それで避難した人たちを始め全国各地の原発周辺に住む人々が、納得・安心できるわけがありません。
 事故時にどのようにして住民に対して放射線量のデータをすばやく提供するかが問題です。この部分の記述は、事故前とまったく変わらず、何事もなかった、従前の平常・日常のことを記述しているにすぎませんから、およそ現在の状況にはふさわしくありません。

 また、福島原発事故の際には、緊急事態応急対策拠点施設、いわゆるオフサイトセンターが全く機能しませんでした。原発に近すぎて、放射線量が高すぎ、電源・通信手段が遮断されて、何の役にも立ちませんでした。事故は起きないという過信のもとに構築されたシステムだったからです。
 緊急時に、最悪の事態に備えた監視体制や、住民へどのようにつたえるか、そのしくみを具体的に目に見える形で作り直さなければなりません。


生徒用p.15 放射線から身を守るには ↑前のページへもどる

確かに、ここには放射線から身を守る方法が解説されていますが、あまりに一般的な内容で、教育現場で役立つとは思えません。現在何故、こどもたちが放射線から身を守らなければならないのか、その原因についてはどこにも詳しい解説はありません。つまり、福島原発の事故で大量の放射線が放出されたこと。どれだけの放射性物質が放出され、どこに放射性物質がどれくらい蓄積しているのか、といった具体的なデータがありません。
 また、このところ問題になっている、ホット・スポット、マイクロ・スポット が実際にはどんなところに存在しているのか、具体例で示す必要があります。
 実際の汚染の状況・汚染レベルに合わせて身を守る方法を具体的に考える必要があるはずですが、実際の汚染のデータはどこにも示されていません。

 また、内部被ばくに関して「放射性物質が決められた量より多く入ったりした水や食べ物をとらないように気をつけたりするなど対策をとることが大切です。」とあります。
 これば一般的な食品の暫定規制値、つまり500Bq/kg でしょうか? それとも2012年4月からの新規制値=100Bq/kgのことでしょうか? 
 そして、その新規制値100Bq/kgは本当に安全な値なのでしょうか? 101Bq/kgと99Bq/kgだったら、安全性に違いがあるのでしょうか? 100Bq/kgの食品は、何kgまでなら食べても大丈夫なのでしょうか?
   放射性物質にここまでなら大丈夫というしきい値はありません。ある人が食べるあらゆる食品の放射性物質を0Bqにすることは難しいかもしれませんが、できるかぎり放射性物質を食べないようにするか、あるいは、規制値を信用して、それ以下ならガマンして食べるか、大げさにいえば生き方の問題です。
   ただ、必要なことは、食品の測定がきちんと行われ、その値が正確に表示されるような食品の販売の仕方が必要なはずです。表示を見て買うか買わないか選ぶのは、それを買う人=消費者=市民です。


生徒用p.16 事故が起こったときの心構え ↑前のページへもどる

 福島原発事故の際に、「パニックを防止する」ということを名目にして、必要な情報が住民に伝えられなかったことの反省は一体どうなっているのでしょうか?
 例えば、放射性ヨウ素がこどもたちにとっては危険なレベルであったことを後になって鈴木元:原子力安全委助言メンバーが公表しました(8.18.朝日新聞)。彼は何回も原子力安全委員会に通知したそうですが、彼の報告は公にはなりませんでした。自治体や県や国も正しい情報を伝えませんでした。そればかりか、事故当時ヨウ素剤を配付し、飲ませようとしたことを、まるでデマのように扱ったメディアがいくつもありました。(読売新聞2011.3.15、2011.3.21) また、ヨウ素剤の服用は必要ないと公言した、御用学者(例えば山下俊一氏:福島県放射線リスク管理アドバイザー2011.3.21.)もいました。
 こうしたことの問題点の指摘・反省なしには、今後の防災計画は立てられないはずですが、こうしたことについての真剣な検討は、未だかつて聞いたことがありません。原子力施設や自治体・政府に対して、緊急時に放射性物質の拡散状況を、住民にどう知らせるか、連絡方法を確保させなければなりません。さらに、その情報の正確さを保証するような仕組みを工夫しなければなりません。
 右の図は、原子力施設の事故が起こったときに、逃げる方向を示したものです。そのときの風向きを測り、風下に対して、直角の方向へ逃げなければなりません。


生徒用p.16 地面に落ちた放射性物質 ↑前のページへもどる

 この記述はこどもたちを危険にさらすので問題が大きい。  放射性物質は地面に落下したとしても、無くなったわけではありません。「地面」にあるわけですから、「それまでの対策をとらなくてもよくなる」とは思えません。土壌に混じっているのであれば、土埃などと一緒に舞い上がることも考えられますから、防護服を着たり、マスクをつけたりする対策は、依然として続けるべきです。また、身長の低いこどもは大人よりも地面に近く、地面からの放射線の影響を受けやすいはずです。「対策をとらなくてもよくなる」というのは、大人目線の考え方です。
 また、事故後エアコンや換気扇を使うのは禁物です。エアコンのフィルターに放射性物質が付着していることがありますし、換気扇の周りにも、放射性物質が残っていることがあります。このような書き方は、原子力施設の事故の影響を出来るかぎり小さく見せようとする意図が見え見えの、悪質な書き方です。


生徒用 p.18 中村尚司 東北大学名誉教授 
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 この副読本の編集委員長 中村尚司 東北大学名誉教授 が講師となって、副読本の普及のための教職員対象の研修会が、富山県教育委員会の主催で開かれました。その模様を富山大学の林衛氏がレポートしています。
 市民科学研究会のHPからご覧になって見てください。
 中村氏は、ICRPの勧告とも矛盾した内容を主張していることが、よくわかります。

「放射線教育・リテラシーはこれでよいのか」 林衛 『市民研通信』第137号(PDF)




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