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100mSv以下の放射線の影響/ 低線量被ばくの影響 |
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■しきい値はある? ない? 100mSv以上の放射線を一度に浴びると、被ばく線量が増えるにつれ、発がんのリスクが高まり、リンパ球・白血球の減少、吐き気・発熱・下痢・下血・嘔吐・脱毛・永久不妊・死亡 などの影響が出ることが知られています。 100mSv以下の被ばくだと、がんの発症・死亡は心配なく、身体的影響が出るとはいえないというようにいわれてきました。 このとき、100mSvという被ばく量が「しきい値」と呼ばれ、しきい値以下ならば影響はない、ないしは、影響が出るかどうかわからない、と主張する考え方があります。 これに対して、しきい値はない、どんなに低線量でも被ばくすればガンなどが発症するそれなりのリスクはあると考えるのが「LNT仮説(しきい値なし直線モデル)」です。 ■LNT仮説は世界標準 「LNT仮説」については、日本の文部科学省などが規範にしているICRP(国際放射線防護委員会)をはじめ、世界のほとんどの機関・組織・国がそれを妥当と認め、放射線防護の基本的な方針に取り入れています。世界標準では「LNT仮説」は仮説ではなく、生きた指針となっているのです。 例えば、WHO世界保健機関の外部組織国際がん研究機関(IARC)による15か国の原子力発電所等の放射線作業者(約40万人)が受けた外部被曝の健康影響についての疫学研究(2005年)では、平均累積線量19.4mSvの集団で、がん死・白血病のリスクが増加していることを報告しています。 この放射線副読本には、「100ミリシーベルト以下の低い放射線量を受けることで将来がんになるかどうかについては、さまざまな見解があります。」と書いてあります。この副読本は日本の文部科学省が制作したものですが、文科省はLNT仮説を全面的には採用していないからだと思われます。しかし、こういう考え方は世界では主流ではありません。 ■「明確な結論が出ていない。」ことと ALARAの原則 文部科学省の考え方では、先に述べた国際がん研究機関IARCの40万人を対象とした研究をも受け入れないのですから、文部科学省が納得する結論が出るまでには、その数十倍もの人々を対象にした研究をしなければならないことになります。それでは手遅れです。 低線量被ばくの影響をきちんと評価するためには、何十万人何百万人もの人々を研究対象にして、喫煙や飲酒・過食・偏食・・・・などなどのさまざまな他の要因を取り除いて、しかも、何十年と追跡調査する必要があります。それが低線量被ばくの研究の難しさです。「明確な結論が出ていない」からといって、全く影響がないわけではありません。 放射線副読本のこの後の部分では、「国際放射線防護委員会(ICRP)は、科学的には影響の程度が解明されていない少量の放射線を受けた場合でも、線量とがんの死亡率増加との間に比例関係があると仮定して、合理的に達成できる範囲で線量を低く保つように勧告しています。」と書いてあります。 なお、この考え方は、ICRPが推奨するALARAの原則という考え方です。「合理的に達成できる限り低く(As Low As Reasonably Achievable;ALARA)」 (ATOMICA) という原則に則って、放射線防護の方策を立てることが求められています。 ただし、このALARA原則の「合理的に達成できる限り Reasonably Achiebable」ということばには、ICRPの意図するところでは「経済的・社会的費用を考慮する」という意味が盛り込まれています。「費用を惜しまずあらゆる技術をつぎ込んで」という意味ではありません。要注意です。 学問的にLNT仮説が正しいかどうかの決着は後回しにしても(未決着なのは日本だけかもしれませんが)、現に今、福島原発事故によって低線量被ばくにさらされている人たちが国内に大勢いるわけですから、予防原則の考え方からいっても、できる限りの対策をとるべきです。 「低線量被ばくについては、安全性を確保するために、多くの知恵を集めて、早急に検討し、適切に対処することが必要です。(放射線副読本)」 まさにその通りです。副読本として書くべきはこのことばだけのはずです。建前ではICRPの勧告に従うものの、本音ではLNT仮説を認めたくないという文部科学省や他の省庁・電気事業連合会などに配慮したり、日本の原子力推進政策のからみなどから、この副読本の記述はぐちゃぐちゃした文章になってしまっています。 |
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