p.12-3   子孫への遺伝的影響
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■胎児への影響
 ドキュメンタリー映画「チェルノブイリ・ハート」(2003年)の中で、ゴメリ市立産院主任医師のニコライ・フラコフスキー医師( 左写真)は、「健常児は(生まれてくる子どものうち)15〜20%くらいでしょう。」と語っています。現場の産科医が胎児への影響を証言しているのですが、放射線との厳密な因果関係を証明できないために、公式な記録としては扱われていません。

■放射線の遺伝的影響
 SF小説や漫画・アニメ・映画の世界では、被ばくをした人やその子孫からいわゆる「ミュータント」と呼ばれる特殊能力を持った人たちが出てきて、大活躍するお話があります。
 しかし、そうした現象はまだ確かめられていません。
 人間ではまだわかっていませんが、昆虫を対象にして最近注目すべき研究が発表されました。
 琉球大学・大瀧丈二准教授が2012年8月に発表した「福島第一原子力発電所事故とヤマトシジミ:長期低線量被爆の生物学的影響評価」という論文です。

■日本中どこにでもいるヤマトシジミ
   大瀧先生は、ヤマトシジミという、日本中どこにでもいるチョウを使って、放射線によってどんな変化があらわれるかをくわしく研究しました。みなさんもこの蝶をどこかで見かけたことがあるでしょう。
 福島では、まき散らされた放射性物質によって生物たちは弱い放射線を、長い期間にわたって被ばくしています。(長期低線量被ばく)  これまでの放射線の研究は、強い放射線を短い期間で被ばくしたとき(短期高線量被ばく)の研究が多かったのです。そのため、蝶は放射線の影響に強い、と思われてきました。
 大瀧先生は、福島で被ばくした蝶や、同じく被ばくしたヤマトシジミの餌(エサ)のカタバミの葉っぱを集めて、沖縄へ持ち帰り、蝶を育てて、子どもや孫を産ませたりしました。
 いろいろなことを研究しましたが、中でも子どもや孫世代への影響を決定的に明らかにしました。

■福島のヤマトシジミの子孫たちからわかったことは?
 福島でつかまえられたチョウは、放射性物質の少ない沖縄へつれてこられて育てられました。その子どもや、孫の代になっても脚や触覚・複眼などがおかしなかたちになったものや、羽のもようが変わっているもの、羽の大きさが小さいもの、成虫(大人の虫)になるまでの時間が長くかかったりするもの、子どもをつくれなくなったりしたものなど、いろいろな異常が見つかりました。
⇒このことは、放射線をあびた親の異常が、放射線をあびていない子から孫へと遺伝していったのではないかと考えられます。つまり親の世代で長い期間にわたって少しずつの放射線を被ばくした場合(長期低線量被ばく)の影響が、子孫へ遺伝することが確かめられたのではないでしょうか。

福島原発事故とヤマトシジミ:よくわかる原子力HP

琉球大学・大瀧研究室HP

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