p.13-4   誤った情報や噂に惑わされず・・・
↑前のページへもどる

■原発事故の反省は生かされているか?
 「誤った情報や噂に惑わされず、混乱しないようにすることが必須です。」・・・確かにその通りです。ところが、福島原発事故の際に、枝野幸男官房長官(当時)が記者会見で「直ちに人体に影響を与える数値ではない」とくりかえしました。さまざまな解釈ができるこの発言をめぐり、国民は混乱し、さまざまな憶測が生じました。また、原発事故の際にSPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)で放射性物質が拡散した方向などのデータを公表しなかったことで、避難した人々に、しなくてもすんだ余計な被ばくをさせてしまいました。こうしたことの反省はどこにいってしまったのでしょうか。
 日本の原子力推進体制は原発安全神話、すなわち、原発では絶対に事故は起こらないという「妄想」にとらわれ、事故が起こることを前提とした対応策をまったく考えてきませんでした。ですから住民の避難体制も考慮して来ませんでした。人間がつくったものですから、事故は起こります。事故が起こることを前提として問題点を点検し、安全な避難誘導体制を構築する当局側の姿勢がまず必須です。

 国には国民の生命と身体の安全を保護する責務があり、原子力災害などの緊急時においては、まさに国家はこの責務を果たさなければならない。【中略】(原災本部は)避難を住民の判断に委ねるという対応をしたものであり、政府・原災本部は国民の生命、身体の安全の確保という国家の責務を放棄したといわざるを得ない。

国会事故調査委員会報告書 p.372


 安倍晋三首相は、原発の再稼働にあたり「世界一の安全基準」を定めたと胸を張りましたが、その安全基準には住民の避難計画は含まれていません。ですから、現在すすめられている原発再稼働の議論(2014.12.)では、住民の避難態勢整備は再稼働の条件にはなっていません。
 そもそも、住民の避難が極めて困難な状況が存在します。避難するための具体的な対策が立てられていない現状で、「情報や噂」の質を問題にすることはナンセンスです。

検証・原発避難計画 伊方 
焦点:川内原発地元の避難計画に批判噴出、弱者対策なく不安募る。ロイター
フィンランド オルキルオト原発の安全対策 2014.7.25.報道ステーション


 アメリカでは、1979年のスリーマイル島原発事故後、米国原子力規制委員会(NRC)が原子力緊急避難計画を規制の対象にしています。避難計画が実現可能でない原発が廃炉になったこともあります。 (ショーラム原発1989年、1994年閉鎖

「実効性ある避難計画を再稼働の要件とせよ」広瀬弘忠 東洋経済


■「避難計画」そもそも無理では?             クリックすると別ウインドで拡大します↓
 現在の想定では、PAZ、UPZ、PPAなどという避難地域区分が設定されています。
 原発事故の際、PAZ(半径5km以内)の住民がまず避難するそうです。UPZ(半径30km以内)では「避難、屋内退避、安定ヨウ素剤の予防服用等を準備する区域」だそうです。PPA(50km以内)は「放射性物質を含んだプルームによる被ばくの影響を避けるため、自宅への屋内退避等中心とした」準備をする地域だそうです。
 避難計画もそれに沿って立てられていますから、まず、PAZの住民を避難させるための手だて、すなわち住民避難用のバスなどの手配がとられますが、その間、UPZ以遠の地域の人々は準備をするだけで、実際の避難はしないと言うことが前提になっているはずです。そうでないと、道路が渋滞するなど、混乱が生じて避難ができなくなってしまうからです。しかし、事故の第一報を聞いたUPZの住民が順番を待って黙ってじっと屋内退避をしているとは思えません。彼らにも自由に避難する権利はあるはずですから、当然避難するするでしょう。茨城県の東海第二原発のように30km圏に93万人もの住民が居住する地域では、混乱は避けられません。要するに、この想定では万一の時に住民が整然と避難できると考えることはおよそ非現実的ではないでしょうか。
 さらに、福島の汚染拡散状況に避難地域区分を重ねた下図(「原発隣接地帯から:脱原発を考えるブログ」より)を見れば、40km以遠の飯舘村も高濃度の放射性物質により汚染されたことがわかります。UPZの想定では十分ではありません。

参考:原発隣接地帯から:脱原発を考えるブログ より
日本全国原発周辺地域の人口分布 埼玉大学・谷謙二准教授(人文地理学)


 図中、各区分の「拡張必要域」というのは、「原発隣接地帯から:脱原発を考えるブログ」の管理者が提案する領域を示す。

 また、上述の川内原発関連のリンクにもあるように、UPZの中でも、とりわけ避難弱者と呼ばれる病人や高齢者・障害者、保育園などに滞在する幼児など、要援護者の避難計画について、責任を持つべき自治体がそれぞれの施設に避難計画策定を丸投げして責任を放棄しています。実現可能な実効性のある避難計画ができないところでは、混乱は不可避です。
 仮に、ある程度の計画ができたとしても、その計画に基づいて避難訓練を繰り返し、日々その実効性を確認するような手だてがなければ、安心安全は担保できません。そうした訓練を想定することすら非現実的です。
 要するに、どのようなものであれそもそも避難計画そのものが「机上の空論」としかいえない代物ではないでしょうか。
 原発事故が起こったら避難ができない・・・という現実をしっかりと見つめる必要があります。それを前提として住民の安全を確保するとしたらどうしたらよいか。そもそもの原因を絶つことしか残されていないように思います。

原発30キロ圏自治体の首長アンケート 2014.3.朝日新聞



■独自の行動指針をつくった新潟県                クリックすると、ジャンプします↓
 世界最大の原発基地:柏崎刈羽原子力発電所を抱える新潟県は、独自の発想で 原発事故行動指針を策定しました。きめの細かい防災計画で、いつ事故が起きるかわからないから、普段の備えをしっかりしておきましょうというメッセージが伝わってきます。他県の原子力防災計画が、国の指針をなぞり書きしたような内容に終始しているのに比べ、具体的に住民の安全をどのように守るかといった視点が随所に見られます。その指針を住民の具体的な行動に結びつけて、住民に防災意識・避難行動を具体的に考えさせるための"原子力防災のしおり(→右図)"を作成・配布しています。
 立地地域の方々にとっては、実際に事故が起こったときにどのように行動するか、具体的なイメージを描けるような防災計画が必要のはずです。この点で新潟県の取り組みは一歩先を行っているといってよいでしょう。
 ただし、その指針をつくった新潟県の泉田裕彦知事はつぎのように発言しています。「機能しない計画は作れるが、実効性が伴わない」(泉田知事と前NRCアメリカ原子力規制委員長グレゴリー・ヤッコ氏との会談 2014.3.朝日新聞) 知事によると「国の新規制基準は一定の確率での事故発生を前提にした機械の性能審査であり、緊急時に自治体がしっかり対応しなければ住民の安全は守れない。実効性ある避難計画が不可欠だが、法や制度の不備が放置されており、特に地震と津波、原発事故が重なる複合災害に自治体が現行制度で対応することは難しい。」とのことです。
 具体的な問題として例えば、「労働者の被曝(ひばく)線量限度が法令で厳しく定められており、住民輸送に必要なバスの運転手に避難指示区域に入る指示をするのが難しい。民間人の線量基準を緩めるか、救助してくれる部隊をつくるか、この合意なしに自治体に避難計画を作らせるのは無理だ」ということです。
 ちなみに、泉田氏からこのことを聞いたグレゴリー・ヤツコ氏は、「避難計画が不十分なら、米国では原子力規制委が原発停止を指示するだろう」と指摘したそうです。(朝日新聞 同上)
   

原発の新規性基準「住民守れぬ」泉田・新潟知事 204.4.23.朝日新聞
防災訓練を通じて浮き彫りになった課題 新潟県 2015.2.5.
大間原発建設凍結訴訟 函館市長:工藤壽樹 204.4.



■秘密保護法の壁
 3.11.福島原発事故の際には、住民の混乱を招く恐れがあるなどとして、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)のデータが公表されなかったということも伝えられています。
 さらに、2014年12月、日本で特定秘密保護法が施行されました。原子力施設の事故情報が、特定秘密保護法が規定するテロ活動防止のためという名目で、秘密にされてしまう恐れがないでしょうか?
 正しい情報が住民に伝えられるという保証がありません。避難のための情報提供に関して、住民・国民の信頼を得る(取り戻す)責任はまず政府・電力会社・原子力関連産業(組織)にあります。

汚染拡大予測、政府生かせず 2011.5.4.朝日新聞
不吉な放射能拡散予測―住民避難に生かせなかった日本政府 2011.8.17.Wall_Street_Journal 
あなたも「秘密保護法」にねらわれるQ&A、Q5参照 日本弁護士連合会


↑前のページへもどる   検証TOP▲