生徒用p.5-1
イメージから生じる「風評」
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この部分の記述では、放射性物質による直接的な被害に対して、イメージによる「風評」の被害の方が 圧倒的に大きいという印象をあたえます。この副読本全体を通じて、放射能の問題は「風評」に過ぎないから 心配するのは適切ではない、というメッセージを伝えたいという文科省の意図が読み取れます。 ■風評被害の原因は? そもそも、風評が広がる原因はなんだったのか、考えてみる必要があります。 まず、その一番大きな原因は、政府・行政の信用の失墜にあります。 ◎メルトダウンまでに至った原発事故がおこっても、「安全」を強調するだけでその実相をきちんと伝えることができなかったこと。 ◎SPEEDIのデータや測定された実測値を公表しなかったように、放射性物質拡散の実態をきちんと知らせることがなかったこと。 ◎100mSvまでの被ばくは心配するに及ばないなどど、放射能による影響を過小評価していること。 ◎「直ちに影響を与えるものではない」と繰り返すばかりで、具体的な数値を公表しなかったこと。 ◎事故前には民間人の被ばく許容限度が年1mSvであったのに、避難指示が解除された避難指示解除準備区域は、年20mSvまで許容されていること。 当局のこうした姿勢が市民の不信を増大させています。風評を押さえ込もうとするあまり、安全宣伝に注力することも、かえって市民の行政当局の規制に対する信用を失わせているという現状分析を、当局はきちんとふまえるべきです。 このような事態はきわめて残念なことです。しかし、一方で原発事故からの救済を放置したまま、原発再稼働をめざす動きがあり、当局の言明のご都合主義に対する市民の懸念を高めてもいます。いま必要なことは、失われた信頼を当局がどう取り戻すかということです。 当局の信頼を取り戻すためには、放射性物質汚染による直接的な被害がどれだけであるのか、 具体的な数値を細かく示すこと、そして地道に信頼回復まで公表を続けていくことが最も適切な方法です。 ■「基準値」で大丈夫? 100Bq程度の放射線の害は取るに足りないとか、食品の基準値は十分安全な基準だし、食品などの「新基準値は国際的に見ても厳しすぎるといわれている」【注】、という主張があります。しかし、現在食品関連の企業や自治体では「さらに厳しい独自の基準を設定している」ことが支持されている現実があります。なぜ、そうした「独自の基準」が支持されているかについての分析はきちんとなされているでしょうか。さきに述べた、当局の信用失墜の問題ですし、どの基準を選ぶかは市民の自由です。 例えば国立がん研究センターの調査では、100〜200mSvの放射線を受けた場合のがんになるリスクは、受けない場合の1.08倍だそうです。同じ資料で、野菜不足によるがんリスクは1.06倍だそうです。だからといって、「野菜不足でも大丈夫ですよ」と人に勧めることはしないし、安心する人は多くないと思います。どんな危険を選ぶか避けるか、それは市民の自由です。 「少しの数値で大騒ぎする態度は科学的でない」という批判は、ことに放射線の場合、これまで幾度となく市民を偽ってきた行政側に発言する資格はありません。まず、行政の信頼をどう取り戻すか、その反省がさきです。 そして、市民に科学的な判断を求めるのなら、食品の汚染が食品の基準値に達しているか、いないかだけの発表ではなく、産地・収穫日時を特定して、具体的な数値をきちんと公表し続けていくことが必要です。なぜなら、その基準値自体が疑われている現実があるからです。 【注】(財)食品分析開発センター ■現在の対応の問題
また、流通業界の対応も次のようになっているといいます。
この先何十年もこうした事態が続くと考えれば、消費者自身が判断力・ニューメラシーをつけなければならないことは自明のことです。国民がパニックを起こすから具体的な数値は公表しないという考え方は、国民を馬鹿にしています。流通業界のみならず、政府も各業界も、きちんと数値を公表することを勇気を持って決断してほしいと思います。 |
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