p.1-16  O:復興は着実に進展? ↑前のページへもどる

 復興は着実に進展しているでしょうか? さまざまなインフラの整備はかなりの進捗状況で、箱物の復旧は進んでいるようです。放射線副読本にはそうした復興をイメージさせる写真が複数掲載されています。
《写真は再改訂版放射線副読本より》

 福島県から県外への避難者は全国に3万2千人余り、福島県内の応急仮設住宅(プレハブ)等に避難している方6871人(2019.2.復興庁による)。こうした未だに避難が続いている方の"日常"はまだ戻っていません。実は、統計の取り方で、この人数に入っていない避難者もおられます。2017年3月末、避難指示区域外から全国に避難している「自主避難者」への住宅無償提供が打ち切られ、避難先の各市町村が自主避難者の多くを「避難者」に計上しなくなっています。ですから自主避難者はこの数字には入れられていません。この措置により2017年3月を境に、福島県から県外へ避難している人々の数は統計上約3000人減少しました。

 復興庁による住民意向調査(2015〜18年)では、帰還困難区域が設定されている町村を中心に帰還しない意向を持っている人々が50%以上(近く)にのぼります。大熊・双葉・富岡・浪江では、まだ判断がつかない方もいらっしゃいますが、戻っている・戻りたいと明確に意思表示している人は20%に足りません。

    《画像にカーソルを載せると大きくなります。》

 とりわけ深刻なのは、こどもたちが戻っていないことです。こどもたちが戻らない理由はいくつかあることでしょう。避難が長くなって、避難先の学校で友達ができ、保護者も生活基盤が出来てきたことで帰還する理由がなくなったこともあるでしょう。放射線の危険があれば、なおさら帰還する選択はなくなるのではないでしょうか。
 右のグラフで、飯舘村や楢葉町の学校にこどもたちが戻っていますが、地元に住んでいるわけではありません。ほとんどが遠方の避難場所からスクールバスなどで通っている子どもたちのようです。
 帰還・復興をうたっていても、こどもたちが戻ることがない・戻ることが出来ない町の未来とはどのようなものになるのでしょうか? およそ持続可能ではない未来像ではないでしょうか。

 福島の状況は国際社会からも懸念されています。帰還・復興を最優先・強制させるような方針に対して、おもに放射線被ばくの観点から勧告・懸念が複数回にわたり発出されています。


■2018年10月:国連特別報告者バスクト・トゥンジャク氏国連総会にて報告。
・日本政府には、子供らの被ばくを可能な限り避け、最小限に抑える義務がある。
・子供や出産年齢の女性に対しては、避難解除の基準を、これまでの「年間20mSv」以下から「年間1mSv」以下にまで下げること。
・無償住宅供与などの公的支援の打ち切りが、自主避難者らにとって帰還を強いる圧力となっている。
■2019年2月:国連子どもの権利委員会による勧告 「自主避難者、特に子どもへの支援などに加え、放射線に影響を受けている子ども達への医療サービスの強化や包括的かつ長期的な健康診断を実施すること、教科書や教材において被爆リスクと子どもが放射線に対し、より脆弱であることについて、正確な情報を提供すること」

井田真人氏による記事 2018.11.01. https://hbol.jp/177765
志葉玲氏による記事 2019.3.11. https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20190311-00117794/ などによる。

 こうした度重なる国際機関の懸念・勧告は日本国内で共有されているでしょうか? 大手マスコミやテレビはこうしたことをほとんど報道しませんから、大部分の国民はこうして国際社会が懸念していることを知りません。国民だけでなく裁判官など司法関係者も知らないようで、最近の原発避難者訴訟など、避難者に対して不十分な補償しかない厳しい判決が続いています。国際社会の放射線に関する常識は、国内では通用しないようです。福島のような放射能汚染状況では避難する権利を認めていくのが国際社会の常識です。
 避難者への住宅支援を継続するなど、帰還を強制しない新しい"復興"のあり方として、どのようなビジョンが持てるか、考えることが求められています。

      
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