p.16-8  大都市と立地地域の需給をめぐる協力関係 ↑前のページへもどる

「原子力発電については、大都市で使われる電気を、遠く離れた原子力発電所の立地地域で発電するという受給をめぐる協力関係があります。」
 この短い一つの文章に、原子力発電をめぐる問題点がてんこ盛りです。

問題@:どうして大都市のそばに原子力発電所を作れないのか。
 端的には、原子力発電所が危険だからです。かつて、「東京に原発を」という運動がありました。電力の大消費地はなんと言っても東京ですから、東京に大電力発電の原子力発電所をたてればよいのではないか。いっそのこと東京のど真ん中の国会議事堂や皇居の地下に原子力発電所を作ればよいという議論もありました。しかし、当然のことながら実現するはずがありませんでした。原発はあまりに危険で、もし万が一事故が起これば、実際に福島では事故が起こりましたが、ものすごい数の人々が犠牲になるからです。電力会社がいくら原発は安全ですといっても、人々が受け入れる話ではありません。潜在的な危険性はみんな承知していたのです。だから、人里離れた人口の少ない地域に原子力発電所は建てられました。

問題A:原子力発電所の立地地域がどのように原子力発電所を受け入れていったのか。
 どの地域でも原発の危険性を心配する反対運動はありました。電力会社はたいていは札束でほっぺたをひっぱたくような強引さで反対運動を一つずつつぶして、原発を建設していきました。もちろん原発誘致に賛成する人も居ましたから、賛成反対のすさまじい動きの中で、地域が分断されていきました。そして、さまざまな地域振興策をかざして建設されていったものの、十年近い建設騒動が終わると、原発を受け入れていった地域は、期待通りには産業も振興せずむしろさびれていったところが多いようです。そして、カンフル剤のように2基め3基めの原発を誘致していったようです。
 原発を受け入れなかった地域もあります。(原発お断りマップ参照)たとえば、新潟県の巻町。そこでは建設誘致をめぐってすさまじい対立の末、住民たちの運動で原発建設を断念させました。

問題B:協力関係?迷惑施設? 立地地域は協力の見返りに何がもたらされたのか。
 大都市の消費地域と原発立地地域は"協力関係"なのでしょうか? 原発を建てるために地元には莫大な資金(電源三法交付金)が投入されます。(135万kW級の原発として、運転開始10年前から運転開始後16年めまで合計1000億円超)このお金は協力に対する消費地域からのお礼と言えるでしょうか? 残念ながら消費地域の人々で、原発立地地域の方々・・・自分たちが使っている電気をつくってくれている地域の方々・・・・への感謝の気持ちをもっている人はごくまれでしょう。どこでどんな風に発電されようが、スイッチ一つで電気を使うことが出来るかどうかが問題で、それ以外の関心はあまりないでしょう。そもそも、地域独占の電力会社体制の元では、消費者は電源を選ぶことができない一方通行でしたから、電力会社の言うなりの電気を使うしかなかったのです。
 一方、立地地域の方々のプライドとして、この国の経済活動を支えているという自負があると思います。
 この関係の非対称性を取り持っているのが、電力会社の利潤追求のための経済活動なのですから、協力とか感謝とか、そんなきれい事の関係をここにみることは難しいと思います。電力会社にとってはこれはあくまで利潤追求の経済活動なのです。それだけ莫大な利潤が見込まれるから、莫大な資金を投下するのです。
 たいていの原発立地の自治体に対して提供される巨額の資金は、迷惑料という性格があります。地域の自然や環境を破壊して、巨大な施設を建設する見返りに提供される資金、それが原発立地交付金ではないでしょうか。

問題C:大都会と原発の立地地域の距離が遠いことでどんな問題が起こるのか?

 大都会のすぐそばに原発を建てられない理由は前述しました。原発の立地地域から遠隔地の大都会まで、何百キロもの送電線で電気を運びます。送電ロスを低減するために日本の電力会社は100万ボルトという世界でもまれに見る高圧の送電線を開発しました。しかしそれでも日本全国では総発電量の5%ほどが送電によって失われていることになるそうです。ちょっと古いデータですが、原発運転華やかなりしころの2000年度全国で約458.07億kWhの損失になったそうです。これは、100万キロワット級の原発5基分の発電量に相当するそうです。原発に依存し、遠方から送電することで、原発5基分の電力が失われていたという皮肉な結果です。
 この100万ボルトの送電線の鉄塔の大きさはどれも高さ100m以上。そのような鉄塔を野越え山を越え、数百キロもの距離を送電し、送電線の端末には大規模な変電所も設置しなければなりません。送電線と変電所の建設・保守・管理費用は莫大な金額になるはずで、単純に送電変電費用として1kWhあたり約2.17円かかっていたそうです。この費用の大半は原発からの送電費用のはずですから、本来原発の発電原価計算に参入しなければならない数字です。しかし、そのような計算はされず、原発の発電原価は安いとされています。原発の影のコストです。  

        
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