生徒用p.13 ゆっくりと放射線を受ける場合 ↑前のページへもどる

 これまで長期にわたって低線量の被ばくをした場合の生体への影響は、短期間に被ばくした場合に比べて、 がん死に至るリスクは、ICRPなどにより少なく見積もられてきました。すなわち長期間にわたる確率的影響と呼ばれる問題で、専門的には「線量・線量率効果係数 DDREF 」と呼ばれる問題です。放射線によってDNAが損傷を受けても、生体の修復機能によって修復されるために、短期間にまとめて被ばくした場合に比べて、低線量をゆっくりと被ばくした場合の方が放射線の影響を少なく出来るという考え方にもとづいています。
 しかし、そのICRPにしても、人間の場合の低線量・長期被ばくに関するきちんとしたデータを示すことは出来ないでいます。これは、ICRPなどが主導しているデータは、主に広島/長崎の被ばく者のデータを根拠にしているからです。しかもそのデータでは、原爆投下直後の一時的短期的な外部被爆の被ばく線量をもとに人体への影響を評価したものが中心で、環境汚染によって引き起こされた内部被ばくによる影響についてはきちんとしたデータを集めていないからです。そして、今世界には、この広島/長崎のデータ以上の精密なデータは存在していません。
 これが、現在世界の放射線被ばくに関する研究の限界なのです。というのも、 核と放射能汚染に関する事故は 世界中さまざまな場所で起こっていますが、こと核関連の事故に関しては、国家機密が壁になり、詳細な調査が行われていません。唯一、チェルノブイリ事故後の各地の状況が貴重なデータになるはずですが、そのデータは今まさに収集されつつあるところですし、さまざまな形で事故の影響を過小評価しようという圧力が問題になっています。

 この問題は2011年12月28日にNHKが『追跡!真相ファイル 低線量被ばく 揺らぐ国際基準』という番組を放送して以来、 にわかに注目をあびてきました。この番組では、低線量・長期間の被ばくの影響(*注)について、ICRPが科学的根拠ではなく政治的判断に基づいて意図的に低く見積もってきたということが、ICRPの関係者の証言で明らかにされました。
 この番組に対して、「原子力ムラ」の住民たち112人が連名でICRPの内部事情を暴露されたことに腹を立てて、NHKに抗議文を送りつけました。その後、NHKをBPO放送倫理・番組向上機構に訴えるということになっています。

 *注:抗議の一つの論拠として、番組の翻訳では「低線量被ばくの問題」と紹介されましたが、証言者は「線量・線量率効果係数:DDREF」と言っている、という問題だそうです。

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