教員用p.15
低線量率被ばくの影響
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ここにはICRPの勧告が紹介されている。すなわち 「(ICRPは)一度に100ミリシーベルトまで、あるいは1年間に100ミリシーベルトまでの放射線量を積算として受けた場合(低線量率)には、リスクが原爆の放射線のように急激に受けた場合(高線量率)の場合の2分の1になるとしつつも、安全側に立って、ごく低い低線量でも線量とがんの死亡率との間に比例関係があると考えて防護するように勧告している。」 これは「線量-線量率効果係数(DDREF)」と呼ばれる問題である。この副読本の他の部分では、100mSv以下の低線量被ばくと病気との関係には「明確な証拠はない」という御用学者の言説をことさらにとりあげるが、重要なのは、明確ではないことではなくて、防護することだ。従って、勧告を文字通り受け取り、予防原則に立って、放射線をできる限り浴びないようにするべきなのだ。 なお、この引用にある「原爆の放射線」とは、いうまでもなく広島・長崎の原爆による被ばくの分析データである。そして上述の「2分の1になる」の部分について、2011年12月28日にNHKから放送された「追跡真相ファイル低線量被曝・揺らぐ国際基準」という番組で、この数値に明確な科学的根拠はなく、むしろ政治的な決定だということが、ICRP関係者の話として明らかになった。そして、その妥当性を巡って議論があることも紹介された。 この番組が放送されると、原子力ムラの学者達が騒ぎ始めた。原子力ムラの学者達112名が連名で、番組が関係者の発言を正確に翻訳せず、放射線の危険性をことさら扇動しているなどとして、NHKとこの番組の制作者達に抗議し、BPO放送倫理・番組向上機構に提訴するという騒ぎになった。低線量被ばくの影響について、ICRPが過小評価していた舞台裏があばかれてしまったからだろう。 こちらに抗議文 単純な比較でも、広島・長崎のデータは原爆による一度きりの、大部分は外部被ばくが中心であるのに対して、チェルノブイリ原発や福島原発事故の場合の被ばくは、内部被曝が問題になることであり、しかも広島・長崎のデータは、内部被ばくの影響が正当に評価されてこなかったとの指摘もある。副読本のように断定的に教えることには問題がある。 澤田昭二氏『日本の科学者』2011年6月号 なお、低線量被ばくにより引き起こされる障害は「がん死」だけではない。チェルノブイリ原発事故で被ばくした人々の間で起こっていることが最近ようやく明らかになりつつある。心臓病や脳血管病・糖尿病・免疫力低下など、いわゆる「加齢」にともなう諸症状が報告されているが、まだ、日本には詳しい分析は普及していない。今後の知見が待たれるところである。 根岸富男 岩波『科学』2012.3.より |
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