全体(1) 「実害はない、風評被害が復興を遅らせている」 ↑前のページへもどる

 この放射線副読本に書かれていることを並べてみましょう:

① 低線量被曝によるがん死亡率について、野菜不足などの生活習慣因子と比較し、さも被曝によるがん死亡率は高くないという印象を与えている

② 「放射線被ばくの早見図」で、前回の改訂版にあった「これまでの平常時の被曝量に、事故時の被曝量を加算することが必要です」を削除した

③ 「放出された放射性物質の量はチェルノブイリ原発事故の約7分の1」と記述し、福島県では健康影響は考えられないと強調している

④ 事故後の放射線量を表す地図を80km圏内のものだけを載せ、前回の改訂版にあった広域の放射線量地図を削除した

⑤ 前回の改訂版にあった福島第一原発の廃止措置の困難性の記述を削除し、「原子炉は安定した状態を維持しています」と、事故炉の処理が順調に進んでいるかのように記述している

⑥ 世界の他の都市と比較して、福島県の線量は高くないという印象を与えている:注1:

⑦ 食品中の放射性物質に関する指標について、日本の平常時の基準と他国の緊急時基準を比較し、日本の基準は厳しいと主張している:注2:

⑧ 「健康影響調査の実施」の項目で「甲状腺」という言葉が全く出てこない

⑨ 前回の副読本にあった汚染地域の学校の在学生徒数などの具体的なデータを削除し、復興が順調に進んで良かったね、という話のみ載せている

 このように、書かれた一つ一つの記述を並べてみると、「実害はなかった、復興が遅れているのは風評が原因」というストーリーに沿った記述がなされていることがよくわかります。しかも、そのストーリーに都合の悪いことはまったく書かれていません。ある政治的ストーリーを宣伝することをプロパガンダ(ある意図を持った政治的メッセージ)と言いますが、この副読本の内容はまるでプロパガンダのようです。
 ある政治的ストーリーに都合のよいことだけを記述し、それに都合の悪い事実やデータを載せない教材があったら、大問題となるでしょう。それを文科省自身がやっているのです。両論併記にさえなっていません。この副読本は学校教育に用いるものだということを考えれば、文科省はこの副読本を撤回するべきです。

注1:福島県の空間線量率の値は一部の除染した地点での値であり、除染していない山林などはまだ相当汚染されている。
注2:副読本p.17-1 のコメントを参照。


        
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