p.4-5  大地から
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「46億年ほど前に誕生した地球の大地にも放射性物質が含まれており、こうした環境の中ですべての生き物が生まれ、進化してきました。」

 ここでも放射性物質や放射線が生物の誕生・進化に不可欠のものであったわけではないということを指摘しておかなければなりません。
【P.4-1】 の解説で述べたとおり、放射線は生物の生存に有害です。放射性物質に囲まれた環境の中で「生き物が生まれ、進化して」きたにしても、放射線の影響を少なくするような条件がそろったところで、生物は生まれ進化してきたのです。誕生や進化に放射線が不可欠であったわけではありません。

 また地球上には地域的に線量の高い場所があります。副読本にもでているイランのラムサール(湿地生物保護で有名なラムサール条約の名前の由来の地)やインドのケララ、チェンナイなどがありますが、そこに住む人々にメリットがあるわけではありません。これらの地域住民に関する疫学調査では、サンプル数が少なく、まだ期間も短く有意な結果が出ているとは言えないというのが現状のようです。

 日本でもラドン温泉などといって、"低量の放射線被ばく"を売り物にしている鳥取県の三朝温泉(みささ温泉)などがあります。そこでは、少量の放射線が身体に良い影響を与えるという"ホルミシス効果"なるものが主張されています。Wikipediaの当該部分を引用します。2019.3.20.閲覧

 当時近畿大学原子力研究所教授の近藤宗平、国立がんセンターの放射線研究部長・祖父江友孝、岡山病院院長の古本嘉明らは、鳥取県三朝町の温泉のある地区の住民と近隣で温泉の無い地区の住人を比較対照した疫学調査を行い、非温泉地区に比較して温泉地区では1952年から1988年の癌死亡率が低いとする論文を日本癌学会の会報に発表した。以降、この論文はホルミシス効果の宣伝に利用されるようになる。しかしその後の再調査で調査期間や調査方法などを更新・分析した結果、三朝町の高レベルのラドン地区と、三朝町の比較対照地区(ラドンが低い)で死亡率の差は見られなかった、と報告している(注;当研究では個々の被曝レベルは測定されておらず、喫煙と食事のような主要交絡因子を制御できなかった)

 このようにかつてこの説を主張する学者が日本にごく少数おりましたが、現在世界的には支持する学者は居ません。
 にもかかわらず、日本各地の温泉地を中心に"ホルミシス信仰"は根強くあり、温泉の効能として宣伝されていますが、ほとんどはこの三朝温泉の論文を根拠にしているようです。

 

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