劣化ウランは放射性廃棄物 |
劣化ウランは何に使われている? |
劣化ウランによる健康被害 |
無関係ではない日本の原発 |
参考資料 |
劣化ウランという名称ですが 英語では「depleted uranium」といいます。「depleted」というのは「空っぽにされた」とか「枯渇された」「激減された」という意味になります。このようにいわれるウランとは、ウラン濃縮によって「核分裂に有用なウラン235」が取り出されてしまったという意味であり、「劣化」とは、ウラン235の濃度が低いという程の意味です。核分裂性のウラン235の濃度が低くなったとはいえまだ含まれていますし、残りのウラン238も放射性核物質です。
図1を見て下さい。 100万kWの原発を1年間稼働させるのに必要な濃縮ウランは30トンです。このウラン燃料を作るために必要なウラン鉱石は13万トン、これから精錬された天然ウランはウラン235の濃度が0.7%です。燃料にするためにウラン235は濃縮工場で濃縮され3~5%にまで高められます。その過程で大量の低濃度ウランが発生します。その量は160トンにも上ります。これが劣化ウランです。
日本の原発は52基、電気出力の合計は4590.7万kW(2003年1月末現在)、世界で運転中の原発は436基、合計出力(設備容量)は3億7372万7000kW(2002年末現在)になります。従って、1年間に発生する劣化ウランの量は、日本の原発分だけで7300トン余り、世界全体では約6万トンにも達することになります。 ここでもう一つ忘れてはならない事があります。それは核兵器製造のためにも濃縮ウランが必要なのです。
この場合の濃縮ウランは ウラン235の含有率を96%以上にするために、その分大量の劣化ウランが発生します。こうした核兵器用の濃縮ウランを高濃縮ウランといい、核燃料用のものは低濃縮ウランと います。
このように核燃料製造過程や核兵器製造過程で生み出される大量の劣化ウランは 核のゴミ、放射性廃棄物に他ならないのです。こうしてたまり続けることになった劣化ウランの総量は、アメリカに約73万トン、フランスに約30万トン日本に約1万トン、世界全体で約150万トンにもなります。核燃料サイクル開発機構の河田東海夫氏によれば、「日本で2020年までに使用する軽水炉燃料の濃縮に伴い発生する劣化ウランの総量は約32万トンと見積もられており、その大部分は海外に残されています。
劣化ウランは核のゴミであることから、当然のこととしてその保管・管理が重要になります。アメリカの場合、全米に3カ所濃縮施設(オハイオ州ポーツマス、テネシー州オークリッジ、ケンタッキー州パドウーカ)があり、専用の貯蔵容器48G(48シリンダー直径約1.2m、高さ約3.9m、6フッ化ウラン重量で12.174トンスチル缶[スチール製])に保管されています。その管理費は年間5億ドルもかかるうえ、容器から漏れた場合、放射能災害として扱われます。
日本においては、人形峠にある核燃料サイクル開発機構ウラン濃縮パイロットプラント及び日本原子力燃料の青森県六ヶ所村にあるウラン濃縮工場に、劣化ウランがたまり続けています。
先ず始めに、劣化ウランの特性を見てみましょう。鉄の約2.5倍、鉛の約1.7倍の比重があります。例えば、コップ1杯の水(200g)と同じ容量の劣化ウランは約4kgにもなります。こうした特徴を利用した民生利用として大きいものに、民間航空機の主翼や水平尾翼、垂直尾翼のカウンターウエイト(重り部品)として使われてきました。1機に取り付ける重りの総重量は、機体により異なりますが、民間旅客機のボーイング747機の場合は最大400kgを搭載しています。 1985年8月12日に単独機で史上最悪の事故(乗員乗客合わせて520名の犠牲者)である日航ボーイング747Rジャンボ機が群馬県上野村御巣鷹山に墜落しました。この機体には約240kgの劣化ウランが尾翼に使われていました。この劣化ウランが火災にまきこまれなかったのが唯一の救いでした。
事故後、日航、全日空、日本エアシステム社は劣化ウランをタングステンに交換しています。ボーイング社は 1981年以降、マクダネル ダグラス社も 1988年から製造している機体にはタングステンを使用しています。このように劣化ウラン使用が徐々に減ってきているとはいえ 世界の747ジャンボ機中 450機がタングステン使用、 551機が劣化ウラン使用のままです(1997年2月4日共同通信)。
1991年の湾岸戦争以降耳にするようになった「劣化ウラン弾」、アフガン戦争以降知られるようになったバンカーバスター等の「劣化ウラン兵器」、それと劣化ウラン弾にも耐えられるように開発された戦車等の装甲板等があります。
劣化ウラン弾には戦車砲弾や機関銃弾などがあります。 いずれも先端がヤリのように尖った形をしています。比重が重い為に貫通力が強く、射程距離も長くなり 、また、風の影響も受けにくいために、命中精度も極めて高くなります。通常戦車砲弾などの材料に多く使われているタングステンの融点は約3300度、これに対して劣化ウランのそれは約1132度です。劣化ウランは対象物に撃ち込まれると、摩擦熱などによって最高3000度に達します。熱で流体化して貫通力が高まった上に、自燃性もあるために、戦車に撃ち込めば、戦車内 の酸素と激しく反応して爆発的に燃えるのです。内部には燃えた劣化ウランの粉塵が大量に溜まり、乗員は即死状態になります。また、熱により搭載している弾薬等に引火すれば、それらの爆発によって戦車は大破してしまいます。
劣化ウラン兵器は、これまでに朝鮮半島などの軍事演習やイスラエルの対パレスチナ攻撃に使われましたが、戦場で大規模に使用されたのは、1991年の湾岸戦争でした。 当時、イラク南部のバスラ周辺地域を中心に、戦車砲弾や機関砲弾合わせて100万発以上もの劣化ウラン弾が使われたといわれています。その結果米軍発表では320トン、UMRC(ウラニウム メデイカル・リサーチ・センター)のアサフ・ドラコヴィッチ博士によれば、最も控えめに見積もっても350トンの劣化ウランを環境中に残し、3~6トンの劣化ウランエアロゾルを大気中に放出したと われています。
1996年のボスニア ヘルツエゴビア紛争においては サラエボ 20km範囲内のセルビア人勢力地域で、1万発以上の30ミリ機関砲弾が使用されました。
1999 年3月から78日間のコソボ紛争においては北大西洋条約機構(NATO)軍の主力である米英軍が、コソボに約3万1千発の劣化ウラン弾である30ミリ機関砲弾を撃ち込んだことを認めています。特にイタリア軍が駐留していたコソボ南西部を中心に112地点でユーゴスラビア軍戦車や装甲車などを標的にして集中的に使用されました。また国連管理下にあるコソボ以外でもセルビア南部やモンテネグロで約3千から5千発の劣化ウラン弾が使用されました。
2001年のアフガン戦争(現在も米軍による攻撃は続いている)では それまで使われていた劣化ウラン兵器だけではなく新たに開発された劣化ウラン兵器が大量に使用されているという疑惑が、英国の劣化ウラン研究者であるダイ・ウイリアムス氏によって提示されました。氏は、米軍の特殊文書や公開資料から、従来の劣化ウラン兵器だけではなく、分厚いコンクリートでできた建物や地下施設を攻撃するバンカーバスターなどの貫通型誘導爆弾の改良型にウランが使用されていると指摘しています。爆弾は、砲弾や機関砲弾よりも、一発あたりはるかに大量のウランを含んでいます。例えば、1トン爆弾は戦車砲弾100発分以上のウランを含んでいます。従って貫通型の爆弾が大量に使われると、それだけで桁違いの汚染を引きおこすことになります。
劣化ウランによる健康被害については、放射能毒性と重金属による化学毒性の二つの原因が指摘されています。こうした状況において、化学毒性について無視することは当然出来ませんが、以下のことから放射能の影響が強いことを示していると考えられます。 イラクのバスラでは、1991年の湾岸戦争で少なくとも300トンの劣化ウランが使用されたと推定されています。バスラ大学の医師アル・アリ博士は悪性腫瘍の疫学的調査を実施し、次の様な結果を紹介しています。湾岸戦争前の1988年と比較して、5年後くらいから癌死亡者が急増し始め、2000年以降には20倍の域に達していること。家族内の複数癌患者発生や、同一人の異なる種類の癌発生、奇妙な癌、出生児の奇形、障害の発生と多数報告しています。また、小児の悪性腫瘍の発生、特に、リンパ腫、白血病、脳腫瘍の発生率の高さが目立っています。なお、この調査対象には、死産であった子どもは含まれていないのです。こうした状況は、イラクの人のみならず、湾岸戦争に従軍した兵士の間でも、癌、白血病、免疫不全をはじめ、慢性的な症状として脱毛や頭痛、関節痛、胃痛、下痢、記憶障害、 睡眠障害など様々な疾患が多発し、「湾岸戦争症候群」とも言われています。 全米湾岸戦争リソース・センター(NGWRC) の1999年末の調査では、戦争後退役し復員軍人局の給付の有資格者となっている50万4047人のうち、52%に当たる26万3000人以上もの帰還兵が、体調の異変を訴え、政府・復員軍人局に医療を要求しています。また、37%に当たる18万5780人が、病気や障害による就労等の不能に対す補償を要求しています。帰還兵のおおよそ半数近くが何らかの健康被害を訴えており、既に9600人以上 の帰還兵が死亡しています。 では何故この様なことになってしまうのでしょうか。劣化ウラン弾が標的に衝突すると燃え上がり、微粉末の煙(エアロゾル)になります。この微粉末は風にのって拡散し、呼吸により、或いは飲み水や食べ物に混じって体内に入ります。呼吸によって空気とともに吸い込まれた劣化ウランの微粒子は、細気管支や肺胞に沈着し、長期間(20年以上)留まり、細胞を障害します。また、食細胞に貪食された劣化ウランの微粒子は、全身に運ばれ、骨髄造血細胞や卵巣、睾丸など生殖腺細胞にも沈着し、白血病や先天異常をもたらす事になります。劣化ウランは主にウラン238であり、その放射線もアルファ線が主体です。アルファ線は紙も透過しないので害がないと言われますが、それは外部被曝の場合にしか当てはまりません。飛程の短いアルファ線(空気中で45mm、水中または身体組織中で40マイクロメートル)は、放射線物質がすぐ近くにある場合を除いて、余り体に届きません。届いても皮膚近くで止まってしまいます。しかし、内部被曝の場合は状況が一変してしまいます。飛程の短いアルファ線は体内で止まってしまうので、周辺の細胞に深刻な影響を及ぼす結果になります。ウラン238の半減期(放射線量が半分になるのにかかる時間)は45億年であり、17時間に1回(年に約500回)の割合でアルファ線を出し続けるのです。
日本の原発に必要な濃縮ウランは、資源エネルギー庁核燃料サイクル産業によると、国産150トンに加え、700トン輸入されており、そのうちの580トンは、米国・ウラン濃縮会社(USEC)製です。この会社は、米エネルギー省のウラン濃縮の民営化によって作られた企業であり、アメリカが製造・配備している劣化ウラン弾の原料は同社が供給しています。そのことは、2001 年1月20日に、USEC社のパデユーカ濃縮工場及びポーツマス濃縮工場の劣化ウランから劣化ウラン弾が製造されていると、ロイターが報じるなどして周知の事実になっています。 2001年に行われた市民団体「美浜・大飯・美浜原発に反対する大阪の会」との交渉の過程で、濃縮工程の大部分を同社に委託している関西電力は、濃縮過程で出てきた劣化ウランについて、その全量を無償で同社に譲渡していることを認めています。但し、それが劣化ウラン弾に使われているとの確証は取れていませんが、疑惑は完全には払拭されていません。
書籍
『放射能兵器・劣化ウラン』伊藤政子、新倉修、野村修身、藤田裕幸、森住卓、谷ヶ崎克馬、山崎久隆著
技術と人間
『劣化ウラン弾』湾岸戦争で何が行われたか 国際行動センター・劣化ウラン教育プロジェクト、新倉修監修
日本評論社 1998年
『知られざるヒバクシャ』劣化ウラン弾の実態 田代明著 大学教育出版 2003年
『劣化ウランの危険性とアメリカでの反対運動、 ローレン・モレさん講演会の記録』グリーン・アクション発行
2002年
『アフガニスタン戦争での劣化ウラン・ウランによる汚染、被害の実態』
UMRC イラク・ウラン被害調査カンパキャンペーン事務局 2003年
『アフガニスタンにおける劣化ウラン戦争ー重大疑惑と検証』
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
『イラク反戦と劣化ウラン』山崎久隆、伊藤政子著、たんぽぽ舎
『原発震災と原子力の黄昏』小出裕章著 理論戦線 実践社 2002年秋号
ホームページ
京都大学原子力安全研究グループ 第94回安全ゼミ
小出裕章 ウランを利用することによる被ばく
http://www-j.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/kouenindex.html
マンハッタン計画指揮者への核兵器開発に関する科学者からの進言
(http://www.mindfully.org/Nucs/Groves-Memo-Manhattan30oct43a.htm)