高レベル放射性廃棄物 ートイレなきマンション
トイレのないマンション
使用済み燃料棒のたどる道
各施設の現状と課題
消せない放射能
参考資料

 

「トイレのないマンション」とは?

 原子力発電所を「トイレのないマンション」ということがありますが、それはどういうことでしょうか?
 日本の火力発電所では、石油、石炭、天然ガスなどが燃料として使われてきました。これらの燃料を燃やすと、燃料中の炭素が空気中の酸素と結びついて(酸化)、二酸化炭素ができます。では、原子力発電所のウランが「燃える」と何ができるのでしょうか。


 「ウランを燃やす」という表現は、「ウランを空気中で酸化させる」ことではなく「ウランを核分裂させる」ことを表しています。ウラン235の原子核が分裂して別の2つの原子核になるときには、大量の熱が出ます。

 この大量の熱が出るという点が、酸化である普通の燃焼と同じなので、燃焼とは全く違う反応である核分裂を「ウランを燃やす」と言ったり、ウランのペレットが詰まった棒を「燃料棒」と言ったりします。原子炉から取り出された燃料棒(使用済み燃料)は、いわば燃えかすです。 これの始末の仕方を曖昧にしたまま、原子力発電を始めたことに対して、「トイレのないマンション」という警句が発せられました。使用済み燃料が、木などの燃えかすと大きく違う点は、放射性物質を多量に含むという点です。大変危険なものであることは分かっていましたから、その後始末の技術が確立されない状態で、商業発電用原子炉を次々と作ってしまうことには、強い反対がありました。使用済み燃料の中身について詳しく見てみましょう。

 

 

 

(図3の説明)
 ウラン235が3〜5%程度含まれるウランを酸化物にして焼き固めたもの(=ペレット)を、金属のさや(=燃料被覆管)に密封したもの。沸騰水型原子炉では50〜80本、加圧水型原子炉では200〜300本程度束ねる。(=燃料集合体)沸騰水型原子炉では400〜800体、加圧水型原子炉では100〜200体の燃料集合体を装荷。
(「原子力発電の原理」のページ参照)

 

(図4の説明)
 使用済み燃料の中の1%のウラン235と95%のウラン238は、使用前燃料に含まれていたものが変化せずにそのまま残ったもの。1%のプルトニウムは使用前燃料に含まれていたウラン238が中性子を吸収しプルトニウムに変化したもの。3%の核分裂生成物はウランとプルトニウムが核分裂してできた様々な原子核の総称。
 図では省略しているが、ウランが中性子を吸収した超ウラン元素(プルトニウムは除く)も0.1%程度できる。核分裂生成物と超ウラン元素は不安定な原子核であることが多く、放射線を出して、さらに別の原子核に変化していく。このため、使用済み燃料の組成は常に変化していく。放射線を出すだけでなく、崩壊熱が大きく、半減期も化学的性質も違う核種が混ざっているため、使用済み燃料の扱いは難しい。(燃料としては、金属ウランではなく酸化ウランが使われているが、図では酸素は省略している。)
 核分裂生成物の例・・・ストロンチウム90(半減期28年)、セシウム137(半減期30年)
超ウラン元素の例・・・アメリシウム241(半減期433年)、キュリウム244(半減期18年)
(注)原子爆弾あるいは、チェルノブイリ原子力発電所事故の場合のように、環境中に放出された核分裂生成物・超ウラン元素は、人体(生物)にとって、脅威(外部・内部被曝よる健康被害)になるため、「死の灰」といわれることがある。チェルノブイリの事故の時にはセシウム137による大規模な食物汚染が起こった。被害は今も続く。

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使用済み燃料棒のたどる道

 原子炉の型によって燃料も違いますが、日本で使われている代表的な燃料棒の使用後の工程をたどってみましょう。(大部分は、今も、一番始めの段階の貯蔵プールにある。)

(a)原子力発電所内の貯蔵プールで冷却
 核分裂生成物・超ウラン元素は不安定な原子核であることが多く、放射線を出して、さらに別の原子核に変化していきます。(=崩壊または壊変。)このときに大量の熱を出すので、燃料集合体を水で冷やします。中間貯蔵施設( 計画中)は、発電所では保管しきれない使用済み燃料を(冷却しながら)保管する。

(b)再処理工場で再処理
 燃料棒の金属のさやから中身を出し、化学的にウランとプルトニウムを分離します。残りは廃液という状態で存在し、核分裂生成物と超ウラン元素はこの液体の中に含まれます。(図6参照。詳しくは「再処理」のページ参照)
再処理後の廃液のガラス固化
廃液を高温で溶かしたガラスに混ぜ込んで、キャニスターと呼ばれる金属容器に流し込み、冷やし固め、ガラス固化体にします。(ガラス固化体を高レベル放射性廃棄物と呼ぶ。)六ヶ所村の再処理工場で作られる予定のガラス固化体は、高さ130センチメートル、直径43センチメートル、総重量500キログラムとなっています。

(c)高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターで保管
 ガラス固化体にしても、原子核の壊変(崩壊)は続き、崩壊熱が出るため、冷却(空冷)のため30~50年間、保管することになっています。出力100万kwの原子力発電所を1年間運転した場合、約30 本のガラス固化体に相当する使用済み燃料が発生します。2002 年末までの日本の原子力発電により生じた使用済み燃料の量は、ガラス固化体にすると約16600 本に相当するとされています。これまでの使用済み燃料は、一部が東海村で、多くがイギリスとフランスで再処理され、ガラス固化されています。2003 年末現在、国内に貯蔵されているガラス固化体は、890 本です。(青森県六ヶ所村760 本、茨城県東海村130 本)

(d)地層処分計画
 2020年頃までの原子力発電によって生じる使用済み燃料をガラス固化体に換算した量は、約4万本とされ、このガラス固化体を、地下300mより深い安定な地層に埋設することが計画されています。ガラス固化体( 外径43 � 、高さ134 � ) をオーバーパック( 厚さ19 � の炭素鋼)に格納し緩衝材( 粘土の一種であるベントナイト)で包み込んで岩盤の処分坑道内に埋める計画です。数十年かけて埋設予定のガラス固化体を埋設し終わった段階で、坑道も埋め戻すことになっています。        処分事業を担う「原子力発電環境整備機構」は、2030年代に処分を開始することを目標にしています。費用は3兆円と見積もられています。

 使用済み燃料棒はいわば燃えかすですが、その処分のためにこれだけの工程(再処理は除く)が必要なのです。発電のためではなく、ゴミの始末のために、中間貯蔵施設、高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、地層処分場などの施設が必要で、さらにそこでは、常に放射能汚染、被ばくの危険がつきまといます。

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各施設の現状と課題

 中間貯蔵施設はまだ計画段階です。今のところは、プールで冷却中の燃料棒の間隔を狭める、発電所の敷地に貯蔵プールを増設するなどして対応しています。まだ再処理が始まっていない六ヶ所村の再処理工場の燃料プールにも運び込まれています。それでも足りなくなってしまうことが心配されています。(使用済み燃料の保管場所がなくなると、原子炉から使用済み燃料を取り出すことができなくなり、発電もできなくなります。「糞詰まり」になりそうなのです。)
 六ヶ所村の再処理工場は、溶接に不備が見つかるなどして、計画に遅れが出ています。再処理が始まらないと燃料貯蔵プールの燃料棒は減りません。運転が開始されてもこの工場の処理能力では、発生する使用済み燃料を処理しきれないと考えられています。六ヶ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターの貯蔵容量は、現在1440本分です。1440本分増設することになっていますが、計画通りにガラス固化体が作られると、貯蔵所は足りなくなると考えられます。

 再処理工場については、その危険性(爆発・放射能汚染の可能性)や経済性(回収したウラン・プルトニウムの価値)を考えたときに、運転開始の再検討を求める声が、原子力関係者からも出ています。使用済み燃料を再処理せず燃料棒のままで処分する方針の国もあります。(この場合はウランとプルトニウムも一緒に処分されます。)日本政府は、今のところ、全量再処理する方針です。
 再処理も地層処分も完成された技術ではありませんから、研究開発だけでもこれからも多額の費用が必要です。原子力発電とは、ゴミの始末のために、多大な資源・エネルギー・用地・人材( これらのための費用)が必要な技術だといえそうです。(原子力発電所から出るゴミは、高レベル放射性廃棄物だけではありませんが、その他のゴミについては、ここでは割愛しています。)

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消せない放射能

 使用前の燃料の放射能はウランによるものだけですが、使用済みの燃料には、核分裂生成物と超ウラン元素の放射能が加わります。原子炉から取り出した直後の燃料棒の放射能は、使用前の一億倍にもなります。(つまり核分裂生成物の放射能が非常に大きい。)時間とともに、放射能は低下していきますが、再処理される時点でも、(使用前の)十万倍以上とされています。ガラス固化体にしても核分裂生成物・超ウラン元素の壊変は続きます。安定な原子核になるまで、壊変は続きます。壊変を人は止めることはできません。ガラス固化体は、人類史上、自然界にあった放射性物質と比べると、桁違いに高密度の放射性物質の塊です。この放射能の害から人体を守るには、人間から隔離するしかありません。ガラス固化体の放射能が使用前の燃料棒と同程度になるには、少なくとも100万年はかかると考えられています。

 このままガラス固化体を高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターに置いておくと、いつかキャニスター(外側の金属部分)が腐食して、放射性物質が出てきてしまうと考えられます。キャニスターが破損する前に、ガラス固化体を作り直す(包み直す)か、破損しても人間の生活圏に影響を与えないと考えられるくらい離れた所(例えば、地下深く)に捨てるしかないと考えられています。政府の方針は「地下深くに埋める(=地層処分)」です。(使用済み燃料の後始末のページ参照)しかし、政府の地層処分計画に対して、安全性を疑問視し、処分方法の再検討を求める声があります。既定路線に固執せず、原子力発電の負の遺産が後の社会に与える悪影響を最小にする方法を、追求することが求められています。

(注)ガラス固化体(表面) 製造直後 14000シーベルト/時(2秒の値である約7.8シーベルトは、100%の人が死亡する被曝線量に当たる。)、
50年後 0.01シーベルト/時(6分の値である0.001シーベルトは、一般公衆の年間被曝線量限度に当たる。)   
(注)ガラス固化体を作り直すことは今まではしていない。また、放射線によって貯蔵施設自体が傷むので、貯蔵施設もいつまでもは使えない。
(注)OMEGA 計画・・・高レベル放射性廃液の放射能を主要核種のグループに分離し(群分離)、高速炉や高エネルギー加速器による核反応によって、すべての放射能の半減期を10年以下にすること(核種変換・核種消滅)を目指す。地層処分の負担を減らすことが期待されているが、研究段階。原子核の構造を変えるためには、当然、大きなエネルギーを必要とする。

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参考資料

ホームページ
地層処分問題研究グループ  http://www.geodispo.org/
原子力委員会  http://aec.jst.go.jp/
核燃料サイクル開発機構 http://www.jnc.go.jp/
パンフレット
『原子力 2002』経済産業省 資源エネルギー庁編集 (財)原子力発電技術機構 2002.10
『考えよう、原子力』 資源エネルギー庁編集 (財)原子力発電技術機構 2003.2
『埋め捨てにしていいの?原発のゴミ』地層処分問題研究グループ 2002
『止めよう再処理』原子力資料情報室図書
『原子力発電で本当に私たちが知りたい120の基礎知識』広瀬隆・藤田裕幸 東京書籍 2000
『原子力発電』武谷三男 岩波新書 1976
『原子力 秘められた巨大技術』NHK取材班 日本放送出版協会 1972
『下北半島六ヶ所村 核燃料サイクル施設批判』高木仁三郎 七つ森書館 1991
『高木仁三郎著作集2』七つ森書館 2002
『原子力と人類』日本科学者会議編 リベルタ出版 1990
『核燃料サイクル』藤家洋一・石井保 ERC 出版 2003
『図解雑学 原子力』竹田敏一 ナツメ社 2003

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