放射線とは
X線の発見
X線の医学利用
放射能の種類とエネルギー
参考資料

 

X線の発見

image_xray X線はレントゲンにより1895年に発見されました。X線と名付けたのは、なにか不思議な未知の光線という意味からでした。
 レントゲンは陰極から陽極に向かって飛んでゆく電子の流れである陰極線の研究をしているときに、電子が陽極にぶつかって出てくる不思議な線を見つけました。この線は、本やトランプのカードを通過しましたが、鉛は透過しませんでした。レントゲンは、実験中に鉛を手で支えていましたので、その線によって彼の手の骨の影が蛍光板に映りました。それを見たときの気持ちを、後にレントゲンは次のように述べています。「私が最初に透過するという驚くべき線を発見した時、それは正に驚愕すべき現象でありましたので、そんな線が実在することを確かめるためにも何度も何度も同じ実験を繰り返して、自分自身を納得させねばなりませんでした。」(「レントゲンの生涯」より)

写真1 レントゲンによって撮られた手のX線写真 
(「放射線生物学」より)

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X線の医学利用

 X線は直ちに医学に利用され、診断や治療に広く使われるようになり、医学に多大の進歩をもたらしました。その一方見方を変えると、その進歩は生物に対する放射線の障害作用を人類が学んでいった過程でもありました。特に放射線が利用されはじめた頃は、放射線の生物に対する影響が知られていませんでしたから、今日では考えられないような無防備さで放射線を扱い、医師や技師さらには患者にも皮膚癌、白血病などをおこし、亡くなる人も多くいました。

 

放射線の種類とエネルギー 

放射線の力を理解するためにはまずエネルギーとは何かを知る必要があります。

エネルギーとは?

image_energy エネルギーとはものを動かしたり(運動エネルギー)、照明をしたり(光エネルギー)、温めたり(熱エネルギー)といったように、すべての仕事の元になる力のことです。エネルギーはお互いに変換することが出来ます。例えば発電の時には、石油などの化学エネルギーをもやし熱エネルギーに変え、熱エネルギーは水を蒸気に変え、蒸気でタービンを回すと運動エネルギーに変化します。この運動エネルギーは発電機の中で電気エネルギーに変えられ家庭に送られると、そこで電気洗濯機のモーターや炊飯器によってそれぞれ運動エネルギーや熱エネルギーに変化します。
 レントゲンが見つけたX線は、陰極から飛び出して高速で飛んでいった電子の運動エネルギーが陽極にぶつかり大部分が熱エネルギーに、残りのわずかなエネルギーが放射エネルギーに変わったものです。

 

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放射線、放射エネルギーとは?

image_waves 「放射エネルギー」或いは「輻射エネルギー」とよばれるものの中には、目に感じる光エネルギー、暖かく感じる赤外線エネルギー、ラジオやテレビなどに使われる電波エネルギーなどがあります。さらにこの中には紫外線、X線の他、ガンマ線も含まれます。これらの放射エネルギーはエネルギーの非常に小さな塊り(「光子」と呼ばれる)と考えられています。
 光子がもつエネルギーは小さなものから非常に大きなものまで広い範囲にわたり、その大きさによって放射線を分類します。このエネルギーと放射線の波長の関係を図2に示しました。X線、ガンマ線は高エネルギー光子です。

 

 

 

 

 レントゲンによりX線が発見された後、ベクレルはウラン鉱石からX線と同様に物質を透過する線が放射されていることを発見しました。ウラン鉱石から放射されている放射線は、物質自身から自発的に放出されます。この物質の放射線を出す性質(活力)は、後にマリー・キューリーにより放射能(Radioactivity)と名付けられました。

 不安定な原子核が壊れるとき放出される放射線にはアルファ線、ベータ線、ガンマ線および中性子線があります。

 

 

 

 

 

 

アルファ線

 アルファ線はヘリウムの裸の原子核で、2個の陽子2個の中性子からなり、+2の荷電を持っています。組織を通過するときにその通り道にある原子の電子を跳ねとばし(電離し)、そのたびに自らはエネルギーを失ってゆきます。アルファ線が組織内で飛べる距離(飛程距離)はせいぜい30から40ミクロンです。これは細胞にすると3個から4個を通過するにすぎません。天然の不安定な原子核から出るアルファ線は500万eV(5MeV 注1)前後のエネルギーを持っています。アルファ線はその軌跡にその持つエネルギーすべてを与えてしまうわけですから、破壊力も大きいといえます。従ってアルファ線を出す放射能が一旦体の中に入ってしまうと組織にとっては非常に有害になります。どの教材にも決まってアルファ線は紙一枚で止まると書いてあります。これはその通りですが、紙で遮蔽出来るのは体の外にある場合のことです。体内では細胞に直接アルファ線が当たります。

ベータ線

 ベータ線は不安定な原子核から出る高速で運動する電子で百万eVの単位で表せるエネルギーを持ちます。電子の質量はアルファ線の1/7,360です。従ってもし同じエネルギーを持っていれば、アルファ線よりもはるかに速いスピードで運動します。その飛程距離は電子がはじめに持っていたエネルギーの大きさにより異なりますが、アルファ線よりもずっと長く、エネルギーが大きいとミリメートルの単位を飛びます。ベータ線もその通り道にある原子核の周りを回っている電子をはじき飛ばし電離を起こします。

ガンマ線

 ガンマ線はウラン元素などの不安定な原子核が壊れるときに放出されます。原子核から出るガンマ線には数百万eV(注1)のエネルギーを持つものもあります。これに比較し、普通のX線発生装置から出るX線のエネルギーは50keVから250keVです。もしエネルギーが同じならばX線とガンマ線が生物に与える影響は同じです。

中性子線

 中性子線も原子核が崩壊するときに出る高エネルギーの放射線です。質量は陽子と同じですが、名前が示すように中性で電荷を持たないために強い透過力をもちます。中性子線は人体にはいると人体を構成する物質の原子核と衝突し、衝突を繰り返しながらエネルギーを失ってゆきます。衝突の相手は中性子と質量がほぼ等しい水素原子核(陽子)であることが多く、衝突された陽子は高速で動き出し、周囲の原子を電離しながらエネルギーを失ってゆきます。そのため中性子線が生体に及ぼす影響はX線やガンマ線よりも大きいのです。

注1)電子のエネルギー、エレクトロンボルト(eV)
真空管の中で電子が得るエネルギーは、陰極と陽極の間の電圧に比例します。もし1個の電子が10ボルト(10V)の電位差のある所を移動すれば、電子の得るエネルギーは10エレクトロンボルト(10eV)です。
注2)電子のエネルギーとX線エネルギーの関係
X線管に50kVの電圧がかかっている場合に、電子が得るエネルギーは50keVで、発生するX線の最大エネルギーは光子1個当たり50keVです。

 

参考資料

「エネルギーを考える」ー浪費社会をこえてー 高木仁三郎著 高木仁三郎著作集第11巻 七つ森書館 
 2002年
「レントゲンの生涯」X線の発見者 W.R.ニツスキイ著 山崎 岐男訳 考古堂 1989年
「放射線と人間」 舘野之男著 岩波新書 1974年
「人間と放射線」J.W.ゴフマン著 伊藤昭好他訳 社会思想社 1991年
「放射線生物学」Eri J. Hall著 浦野宗保訳 篠原出版 1995年

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