ウラン燃料とは |
ウラン鉱石の採掘 |
ウラン燃料はどこから? |
ウラン燃料の精錬 |
30トンの燃料を作るために |
アメリカ先住民はウラン採掘をどう見るのか? |
参考資料 |
原子力発電に使われる燃料はウラン燃料といい、図1のようなペレットになっています。
私たちが調べたすべての教材に、ウラン燃料は少しで大きなパワーをだすと書かれています。そして図2のように他の燃料との比較がされています。それではウラン燃料のペレットは石炭のようにそのまま土の中に埋まっているのでしょうか?そうではないことは誰にでも分かります。ではウランはどのようにして小さな燃料ペレットに作られてゆくのでしょうか。調べてみましょう。
燃料をつくる第一歩は、ウランの含まれている鉱石が沢山あるところを探し、その鉱石を掘り出すところからはじまります。鉱石を掘り出すには露天掘り、坑内堀、インシチュー・リーチ法等の方法があります。
ウランの鉱床が地表から浅いところにある場合は露天掘りが行われます。露天掘りの場合は大型機械の導入が可能なので、生産規模、能率は坑内堀より大きいです。しかし、写真から明らかなように、ウランを含んだ残土がむき出しになっています。これでは乾くと埃となって周辺に飛び散り、大雨が降ると川に流れ込むというように放射能による深刻な環境汚染が引き起こされます。ウランを含んだ土には、ウランだけでなくトリウム、ラジウムなどの放射能も含まれ、これを吸い込むと肺がん、骨肉腫などの原因になります。
鉱床が深い場合に坑内堀が行われます。
鉱床まで坑道が掘られ鉱石を運び出します。発破によって鉱石を崩すので放射能を含む埃が坑内に充満します。鉱夫のなかには肺がんになった人も多くいます。
鉱床内に直接硫酸などの溶媒を流し込み目的の金属を溶液中に溶かし出す方法です。この方法では残滓はでませんが、溶媒及び放射能による深刻な地下水汚染の原因となります。
このような方法で採掘されたウラン燃料を、日本はカナダ、オーストラリア、アメリカ、南アフリカ、イギリス等から輸入しています。
ウラン鉱石が採れる鉱山は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、インドなどで先住民が住んでいるところに多くあります。
アメリカではユタ州、コロラド州、アリゾナ州、ニューメキシコ州の4州にまたがるフォーコーナーズと呼ばれるところにナバホ族、ポピ族等のインディアンの居住地(*参考資料7参照)があります。日本に落とされた原爆の原料になったウランはこの地方で採掘されました。鉱山で働く人々にはウランが体に悪いことなど知らされていませんでしたから、埃だらけの坑道内で食事をしたり、坑道の中に溜まった水を飲んだり、放射能を含む埃まみれのまま家に帰り子供達と遊んだりしました。このような状況は、どこのウラン鉱山でも共通しています。そのため、ウラン鉱山で働いた人たちの中には、肺ガンで亡くなる人が他の地域よりも5倍も多いという報告もあります。ウランの採掘の初期の頃に鉱山で働いたナバホ族の400人中約70人が肺がんで死亡したといわれています。(日本人の場合 1997年の統計では、肺がんで死亡する男性は1万人中約4人です)
カナダではサスカチュワン州に世界で最も多くウランを含む鉱石がとれる所がありますが、その周りには、デイネ、クリー族などのインディアンが多く住んでいます。インディアンは狩猟、木の実の採取、漁などで暮らしていますから、土地が汚れるとその影響を強く受けます。
オーストラリアではジャビルカ等アボリジニーの人々が住んでいる土地から彼等を強制的に他の場所に移住させ、聖地を壊し、強い反対をよそにウラン鉱石が掘り出されていました。しかし、アボリジニーの粘り強い反対運動によって、ジャビルカ鉱山は今年の雨期に入る前に原状復帰工事が完了する見通しになりました。
インドではカルカッタの北西、ジャールカンド州、先住民が暮らすジャドウゴダ村にウラン鉱山があります。この地方に住む先住民の生活の場であった場所に鉱滓池を作り、鉱滓を投棄しているため、住民は放射能汚染にさらされ、癌や白血病なども多いといわれています。
ナンビアは露天掘りウラン鉱山としては世界最大の規模のロッシング・ウラン社の鉱山があります。鉱山労働者は人種差別,劣悪な労働条件、低賃金で働かされていました。放射線の影響について教育されずに働かされるのはどこの国の鉱山でも共通です。
日本でも昔(1955 年から10 年間)岡山県と鳥取県の県境、人形峠近くでウランが掘り出されたことがあります。全部で80 トンくらい掘られましたが、採算が合わず中止されました。
採掘された鉱石は精錬工場と呼ばれるところに運ばれ、細かく砕かれて水で洗われます。そのあと濃硫酸、アンモニア等の薬品を使用して、段階的にウランを他の混ざりものから精製してゆきます。精錬されたウランはイエローケーキと呼ばれ、さらに濃縮工場に運ばれてウラン燃料となります。残りの混ざりものも鉱滓と呼ばれ池に貯めておかれたり、野積みにされていたりします(写真4)。これにはまだ放射能が多く残っているため洪水で周辺の湖や川に流れ込んだり、さらに乾くと埃となってまわりに飛び散り、広範な土地を放射能で汚染し、周辺に住む人々の健康を脅かします。
普通の大きさの原発(100万kW時)を一年間運転するのに必要なウラン燃料は30トンです。
燃料ペレットは燃えるウラン(核分裂を起こしてエネルギーを出すウラン)であるウラン235、約3%と燃えない(核分裂しない)ウラン238、約97%からなっています。
天然のウラン鉱石中の、ウラン235とウラン238の割合は0.7%と99.3%です。そのため燃料ペレットを作るには、ウラン235の濃度を高くしなければなりません。これを濃縮といいます。
30トンの燃料を作るために、ウラン残土が約240万トン、鉱滓(低レベル放射性廃棄物)が13万トンでると計算されています(劣化ウラン弾の項参照)。
国連科学委員会の報告によると、世界では現在14カ国がウランの採掘を行っており、これまでに100万トン以上のウランが採掘されました。そして残土は16億8000万トン以上にのぼるといわれます。この想像することもできないような量の残土を処理するためにはまた莫大な費用がかかるので、野積みにされている所が大部分です。鉱滓は細かく砕かれているために乾燥すると風にとばされ、大雨が降ると川に流れ込み環境を汚染します。アメリカのチャーチ・ロックでは、ユナイテッド・ニュクレアー社の放射性廃棄物貯蔵ダムの堤防が崩れ、油と硫酸を含む放射性廃棄物が、ナバホ族が飲料水としていたプエルコ川に大量に流れ込み、150km下流まで汚染しました。事故後、精錬所は閉鎖されましたが、川からはラジウム、ウランなど高濃度の放射能が検出され、川の水も井戸水も飲めなくなりました。しかし、家畜はその水を飲んでいますから、家畜の肉を食べる人間も当然放射能を体の中に取り込んでしまいます。このような放射能汚染の危険性はウラン採掘所の多くが抱えている問題です。そしてウラン238の量が半分に減る時間(半減期)は地球が誕生して今日までの時間、すなわち45億年もかかるのです。このように鉱滓は厄介なゴミで、ウラン採掘をしている国はその処分に頭を悩ませています。しかし、このゴミが湾岸戦争、コソボ紛争、イラク攻撃等で莫大な量使われた劣化ウラン弾や劣化ウラン兵器として廃物利用され、広い地域を放射能で汚染しました。(劣化ウラン弾参照)
ネバダ・ウエスタン・ショショネの長老キャリー・ダンはいっています。
「金を探し当てようとして大地を掘りおこすことも、金を探し当てようとして水をくみ上げることも犯罪です。人類に対する犯罪です。いのちに対する犯罪です。全人類が依存するいのち。いいえ人類だけでなく、他の生き物もいます。私たちの土地には、鹿もいるし、鷹もいるし、ウサギたちもいます。金を掘り出すものはそれらすべてを破壊に導き、いや現に破壊し、未来の世代のいのちは失われてしまうでしょう」
ナバホ部族のアンナ・ロンドン
「私たちナバホは、その創世神話の中で、ウラン(ナバホはそれを地下世界からのクレッジ(cledge)と呼ぶ)は大地の中に留めておくべきものだ、といつも教わってきた。それは黄色の物質で、昔からの言い伝えで知っていた。・・・中略・・・ウランは地中に留めておくべきだった。もし解き放たれたなら、世界中の先住民文化でもそう考えられているように、それは邪悪な蛇になり、災害や、死や破壊をもたらすだろう・・・。」
「少しの燃料」と簡単に言い切ってしまったそのうらには、このように多くの重大な問題が隠されています。
そのことをバッサリと切り捨てて「少しの燃料」と教えて良いものでしょうか。
1)「核の影を追って」ビキニからチェルノブイリヘ 豊崎博光著 NTT出版 1996年
p142 インデイアン居住地ウラン採掘場
p186 オーストラリア
2)「アトミックエイジ」地球被ばくはじまりの半世紀 豊崎博光 写真・文 築地書館 1995年
3)「環境レイシズム」ーアメリカがん回廊をゆくー 本田雅和、風砂子・デアンジュリス著 解放出版社 2000年
化学工場、ゴミ処理施設、核廃棄物、ウラン採掘工場が、黒人、インディアンの土地ばかりにやってくるのは何故か。レイシズムの視座から考える。
4)「劣化ウラン弾」Metal of Dishonor Depleted Uranium 湾岸戦争で何が行われたか
国際行動センター・劣化ウラン教育プロジェクト、新倉 修/監訳 日本評論社 1998年
第13章 インデイアン居住地でのウラン開発
第14章 ウラン、ペンタゴン、そしてナバホの人々
第16章 先住民反核サミットの宣言
5)「核の20世紀」訴える世界のヒバクシャ
平和博物館を創る会 日本原水爆被害者団体協議会企画・編集 平和のアトリエ発行 1997年 これは写真集です。
6)「核燃料と原子炉材料」 原子力の基礎講座 日本原子力文化振興財団
7)(*)アメリカ先住民が居住区に押し込められてゆく歴史と血塗られたアメリカ合衆国の建国の歴史とは表裏一体のものです。その歴史は、アメリカ・インディアン闘争史「我が魂を聖地に埋めよ」(デイ・ブラウン著、鈴木主悦訳 思想社 1972年)に詳しく書かれています。この本は現在のアメリカの有り様を理解するためには非常に参考になります。是非一読をお勧めします