すべての物質は原子から出来ている。原子は原子核とそれを取り巻く電子で成り立っている。原子核は陽子(水素の原子核)とそれとほぼ同じ数の中性子とから出来ていてる。原子核の半径は、原子全体の1万分の1以下であるが、原子の質量の99.9%以上を占めている。原子核の陽子の数と同じ数の電子が原子核の周りを雲のように取り巻いている。
同一の原子番号を持つ原子の集合名称。その原子核には原子番号に等しい数の陽子がある。同一の原子番号を持ちながら、質量数((陽子の数と中性子の数の和)が異なるものを同位体(または同位元素)と呼ぶ。原子の化学的性質は、原子核の外側の電子(核外電子)の挙動に依存している。どの同位体の核外電子も質量数によらず同じ挙動をするので、一般に同位体どうしを化学的操作によって分離することはできない。同位体(isotope)の名はギリシャ語のisos(同じ)とtopos(場所)に由来し、周期表上で同じ場所を占める(同一の元素である)ところからきている。元素名の後ろに質量数を記して(これを核種とよぶこともある)、同一元素の核種を区別することがある(ウラン235、ウラン238、・・など)。天然に存在する元素は、安定な同位体をもち、原子番号1番の水素から92番のウランまでの元素のうちテクネチウム(原子番号43)とプロメチウム(原子番号61)を除いた90種類ある。これらの元素のほとんどは星の進化の過程で生まれた。天然にはない元素の原子核は、いずれも不安定であり、余分なエネルギーを放射線として放出し、より安定な原子核に落ちつこうとする。このような放射性の原子核をもつ同位体を放射性同位体(放射性元素)という。
原子核中の陽子の数に等しい。元素の種類を決める数値。中性の原子であれば核外電子の数にも等しい。
原子核を構成する陽子(+1の電荷をもつ)と中性子(電荷は0)の総称。核子の総数がその原子の質量数である。原子核の安定性は、陽子と中性子の数の比と密接に関係している。核子は、核力という非常に大きな力によって、原子の半径(およそ1億分の1cm)のさらに1万分の1以下の半径しかない原子核という狭い領域内にまとまっている。この大きな力は、結合エネルギーにして化学結合の10万倍から1億倍にもなる。
このように核力という強い力で結ばれている原子核ではあるが、陽子の数に対して中性子の数が多すぎたり少なすぎたりすると不安定となり、電子やα粒子を放出して安定な原子核に変化する。この過程を放射性崩壊という。崩壊の過程で放出される放射線に、アルファ線、ベーター線、ガンマ線がある。
原子核をバラバラにして個々の構成粒子の形にしてしまうのに必要なエネルギー(核を固めているエネルギー)を原子核の結合エネルギー(質量欠損に相当する)といい、質量数とともに増加する。1個の核子当たりの平均の結合エネルギーは鉄の原子核(質量数56付近)で最大(約8.6MeV)となる。これはあらゆる元素の中で鉄の原子核が最も安定である(結合が強い)ことを意味する。ウランやプルトニウムなどの重い原子核は、それより軽い2個の核に分裂(核分裂)すると、分裂後のそれぞれの原子核はより強い結合エネルギーで結びつく(全体として反応前より小さい質量で存在できる)。また、鉄よりも軽い元素(特に水素やヘリウム)が核融合すると、生じた原子核の核子当たりの結合エネルギーが急速に増加し、核の質量は融合前の質量の和より必ず小さい。核分裂でも核融合でもこの質量の減少が膨大なエネルギーとして放出され、原子力エネルギーの源となる。
核反応は、原子核の変化(反応)である。このことが化学反応とは本質的に異なる。原子核が自然に、あるいは核と他の粒子との衝突によって起こる相互作用の結果、核粒子(原子核または核子)どうしの組み替えが起こり、他の核粒子を生成するかまたは(同時に)ガンマ線放出を起こす反応をいう。核子の数が変化して、ある元素が他の元素へと変換したり、同一元素の他の同位体へと変換する(反応の前後の系で核子の総数は変化しない)。反応が自然に進行するか、他の粒子との衝突によって起こるかにより、ここでは便宜的に区別する。
1)放射性崩壊(壊変)
不安定な原子核(放射性同位体)が、より安定になろうとして自然に粒子やガンマ線を放出して、別の原子核に変わる現象をという。その主な型を次に挙げる。
a)アルファ崩壊
アルファ線(ヘリウムの原子核、すなわち、原子番号2、質量数4)を放出するので、原子番号は2、質量数は4減少する。原子番号82以上の核(特にアクチニド)に普通に起こる壊変である。たとえばウラン238とウラン235、とプルトニウム239は、いずれもアルファ線を放出して、この順に原子番号90のトリウム234とトリウム231、原子番号92のウラン235へと壊変する。
b)ベータ崩壊
原子核中の中性子が陽子に変換する過程で、電子と反(電子)ニュートリノが放出される。したがって質量数は変わらないが、原子番号は1だけ増加する。この壊変は軽い元素にも重い元素にも見られる。たとえば、炭素原子には6個の同位体が知られているが、安定なのは炭素12と炭素13であり、他は放射性核種である。炭素14はベータ崩壊 し、安定な窒素14へと変換していく。半減期が5730年なので、この壊変は化石の年代測定に適している。
c)ガンマ崩壊
例えば原子炉の中で、ウラン238の原子核に低速中性子がぶつかって吸収されてウラン239へと変換される。このとき、励起されたウラン239は余分なエネルギーをガンマ線として放出する。[ウラン239は半減期が短く(23.5分)、ベータ崩壊によってネプツニウム239へ(半減期2.4日)、さらにベータ崩壊によってプルトニウム239に変換される。]他にも核分裂、アルファ崩壊、ベータ崩壊などの結果生じる原子核の多くはガンマ崩壊を行うものが多い。ガンマ崩壊では原子番号、質量数の変化はない。
d)電子捕獲と陽電子放出
中性子の数に比較して陽子が多すぎる核は、陽子が核外電子1個を吸収して中性子に変わり、同時にニュートリノを放出する(電子捕獲)か、あるいは陽子が中性子に変換して、このとき陽電子(電子と同じ質量をもち、正の電荷をもつ粒子)と(電子)ニュートリノを放出して安定化しようとする(ベータ崩壊の1種)。いずれの場合も原子番号が1だけ減少し、質量数は変わらない。
2)原子核が他の粒子との衝突によって原子力エネルギーを生み出す典型的な核反応として、次の核分裂と核融合がある。
核分裂反応は最初にハーン、シュトラスマンとマイトナーによって発見された。ウラン235に中性子1個がぶつかって吸収され、不安定となった原子核が、多量なエネルギーを放出しながら同程度の質量をもつ核種への核分裂を起こす。反応によって生じた中性子(平均2.5個)は、ウラン235の濃度が充分あれば、さらに他のウラン235に次々とぶ つかり、反応は連鎖的に進む(臨界状態)。原子力発電(制御された反応)も原爆も、このような核分裂の連鎖反応中に放出される莫大なエネルギー(1回の反応が200MeV程度、これは化学反応である炭素の燃焼反応の1000万倍のエネルギー)を利用している。プルトニウム239もきわめて核分裂しやすい。
鉄より軽い元素同士が融合して重い元素に変換する核反応である。宇宙の始まりのとき、中性子、陽子に続いて、それらの融合により10数秒以内にヘリウム(He、原子番号2)の原子核が生まれたという。Heは、水素とともに星の中でさらに重い元素生成の重要な材料となる(たとえばHe4の原子核が3個核融合して炭素12となる)。核融合反応は発熱反応であるため反応の結果星の内部の温度と重力が増していく。さらに高温となって次第に重い元素が生成される。太陽の中で起こっている反応もきわめて高温のもとで起こる核融合である。4個の陽子からヘリウム1個と陽電子2個とニュートリノ2個を生み出す反応よって、表面温度6000度、中心部1400万度にもなるという膨大なエネルギーを生み出す。地上で核融合を起こすには、太陽におけるより遥かに反応速度の大きい、非常に高温で高密度の状態での反応が必要である。(ITERの問題点を参照)
強い力が働かない素粒子(レプトン)の一種で、中性微子ともいう。3種類(電子ニュートリノ、ミューニュートリノ、タウニュートリノ)が知られている。これらのそれぞれに、反ニュートリノがある。電荷は0、質量はほとんど0と考えられてきた。弱い力(相互作用)と極めて小さい重力しか働かないため、あらゆる物質を通り抜けてしまう。そのためその存在を直接実証できたのは、1956年にライネスとコーワンによる原子炉からの反(電子)ニュートリノが最初であった。2002年のノーベル物理学賞を受賞した小柴昌俊氏は、神岡鉱山のカミオカンデにより、1987年2月23日、大マゼラン星雲中でおこった超新星1987Aの爆発で発生した高エネルギーニュートリノの検出に世界で初めて成功し、「爆発のエネルギーの99%がニュートリノに変わる」という超新星理論の正しさを証明した。また、太陽内部の核融合反応の際発生する太陽ニュートリノを観測した。太陽エネルギーの源が核融合であることを証明したデービスとともに、小柴がこれを確認したことで、2人は「ニュートリノ天文学」という新分野を開拓した。1996年からのスーパーカミオカンデによる観測で、地球大気上層部で宇宙線によって作られる大気ニュートリノを精密に観測し、3種のニュートリノが互いに混じり合う「ニュートリノ振動」という現象を実証した。これによりニュートリノが質量を持つことを示した。
原子番号がウラン(U、原子番号92)より大きくて、天然にはない元素。いろいろな原子核に中性子をぶつけて人工的に作られる。1939年、アメリカのマクミランとアベルソンが、初めて93番元素(ネプツニウム、Np)を作り出した。現在110番以上の元素まで報告されている。(原子番号89から103番までの元素はアクチノイドと総称される)。超ウラン元素はいずれも放射性である。原子力発電のバックエンド過程において、従来の化学者には未知の存在であった長寿命で強い放射能を持つ超ウラン元素が主役となる。そのため、多くの未解決な技術的困難がある。
天然にはU 238(半減期44億7千年)が99.3%、U 235(半減期7億年)が0.71%、その他わずかな同位体がある。いずれも、アルファ線を放出する放射性毒性と、腎臓を侵す化学毒性を併せもつ。低速の中性子があたって核分裂をおこすのはU 235である(U 238は中性子エネルギーが1MeV以上で核分裂する)。このとき放出される膨大なエネルギーが核爆弾(1945年8月6日、広島に落とされた)にも、原子力発電にも利用される。U 235の濃度を人工的に高めたものを濃縮ウランといい、U 235が多い(濃縮度が高い)ほど臨界に達しやすい。U 235含有量が20%をこえるものを高濃縮ウラン(HEU),20%以下のものを低濃縮ウラン(LEU)とよぶことがある。
原子炉ではU 235の濃縮度3〜4%のものが多く使われる(ウラン燃料ができるまで、原子力発電の原理参照)。濃縮過程で、天然ウランよりも、U 235の割合が少ない(0.2‾0.4%)劣化ウランが生じる。劣化ウランは、単位体積当たりの質量が大きい(重い)ので、弾丸の材料となり、1991年の湾岸戦争や、アフガニスタン、2003年のイラク侵攻でも米軍が多量に使い、その影響は小児白血病やがん、尿中のウラン量の急増などとして現れていると報告されている(劣化ウラン参照)。
多種類のPuの同位体は原子炉の中で人工的に生成し、“この世で最も毒性の強い元素”といわれる。その理由は、きわめて長い間アルファ線を放出し続け(たとえば主成分のPu239の半減期2万4000年)、いったん人体に取り込まれると排せつされにくく、肺に達すると、28マイクログラム(1マイクログラムは百万分の1グラム)という極めてわずかな量で100%肺癌を発生させるといわれているためである。(また骨表面に留まり骨の癌の原因となる。)Pu239は原子炉の中で、U238に中性子が当たって作り出される。1945年8月9日、長崎に落とされた原爆にも使われた。核兵器のほか、日本でも原子力発電でウランに代わる核燃料としての利用が計画された(核燃料サイクル参照)。Puを燃料とする高速増殖炉もんじゅは1995年にナトリウム漏れ火災事故を起こして以来停止中である。代わりに浮上したPuをウランと混ぜたMOX燃料を燃やす計画もまったく進展していない。使用済み核燃料からPuを取り出しても、利用する当てがないのが現状である。世界でも、Puを大量に扱うことの深刻な技術的な困難さや経済性のために、高速増殖炉や再処理施設の施設閉鎖や建設中止が相次ぎ、Pu利用計画は放棄されようとしているが、日本のみはなおこれを推進しようとしている。
MOX燃料を炉心に配置し、その外側に配置したブランケット燃料(劣化ウランで構成)に高速中性子が吸収されることによって、原子炉の中で消費される核燃料物質(ウラン235,プルトニウム239など)の量よりも、新しく核燃料物質(プルトニウム239など)に変換される量の方が上まわるように設計された原子炉。炉心で発生する熱は、ナトリウムを冷却剤として循環させ、最終的には水に伝え、蒸気を発生させて発電するもの。わが国でも1980年代、核燃料サイクルの基本として計画されたが、原型炉もんじゅは、1995年にナトリウム漏れ事故を起こし、計画はとん挫している。各国でも、技術的困難から、ほとんどすべての高速増殖炉計画は挫折している。このため、燃料として使われるはずだったプルトニウムが余ってきている。プルトニウムは核兵器の材料となり、放射能毒性が極めて高い(プルトニウム参照)。再処理によって取り出したプルトニウムの利用法として、MOXのかたちで主に軽水炉で使用するプルサーマル計画が浮上した(→プルサーマル参照)。
ウラン(天然、あるいは、劣化ウランを利用)とプルトニウムの混合酸化物。高速増殖炉では、プルトニウムの割合は、20%前後、軽水炉では5〜10%前後のものが使われることになっている。ウランとの混合技術、臨界事故の危険性、労働者被ばく、などMOX燃料製造に伴う新たな危険性が指摘されている。
高速増殖炉計画に先が見えないため、余ったプルトニウムの使い道として、ウラン燃料の代わりにMOX燃料を熱中性子炉(普通の原発、おもに軽水炉)で使用することが考えられた。プルはプルトニウムの略、サーマルはサーマルリアクタ(熱中性子炉)の意。もともとウラン燃料(酸化ウランのかたち)用に設計された軽水炉で、MOXを燃料に使うには、燃焼度の差などから、安全性、経済性、技術的に大きな問題があるとされる。安易な導入は避けるべきではないか。MOX燃料製造に関わるデータねつ造、東京電力の炉心シュラウドなどの損傷隠しなどを受けて、新潟、福島両県はプルサーマル計画の事前了解の取り消し、白紙撤回を発表した(2002年9月)。福井県、佐賀県は計画再開を了承することを発表している(2004年3月)。
健康診断や癌の治療に使われるX線は、電磁波でありX線発生装置で人工的に作ることが出来る。電子を高いエネルギーで加速し、タングステンや金にたたきつける。その結果電子の持つ運動エネルギーの大部分が熱エネルギーに変わり、一部がエックス線(放射エネルギー)、に変わる。物質を透過する時その通過した道(飛跡という)にある原子のもつ電子をはじき飛ばして電離を起こさせるので、電離放射線ともいわれる。現在では広く医学のみならず工学分野でも利用されている。
原子核の変換に伴って放出される 高エネルギーの電磁波。エネルギーが同じならばX線と同じ性質を持っている。エネルギーが大きいと、紙、人体、木、アルミニウム等を透過するが、鉛、厚いコンクリートで遮蔽される。
ヘリウムの原子核で、陽子2個、中性子2個からなり、プラス2の荷電を持つ。組織中での飛程距離(飛ぶことが出来る距離)は30から40ミクロン程度で、細胞にすると3から4個突き抜ける程度である。体の外にある場合は、よく教材に書かれているように紙一枚で遮蔽することが出来る。しかし、大きなエネルギーを持っているため、体の中にはいると生体に対する傷害作用はエックス線やガンマ線よりずっと大きい。ラドンやプルトニウム等多数の放射性物質から放出され、吸入により肺に沈着すれば肺癌の原因となる。
不安定な原子核が壊れるときにできる高速で運動する電子で、負の荷電を持つ。その飛程距離は電子がはじめに持っていたエネルギーの大きさにより異なるが、アルファ線よりもずっと長く、エネルギーが大きいとミリメートルの単位を飛ぶ。ベータ線もその通り道にある原子の電子をはじき飛ばし電離を起こす。
中性子線も原子核が崩壊するときに出る高エネルギーの放射線。中性で電荷を持たないために強い透過力をもつ。中性子線は人体にはいると人体を構成する物質の原子核と衝突し、衝突を繰り返しながらエネルギーを失ってゆく。衝突の相手は中性子と質量がほぼ等しい水素原子(陽子)であることが多く、衝突された陽子は高速で動き出し、周囲の原子を電離しながらエネルギーを失ってゆく。そのため中性子線が生体に及ぼす影響はX線やガンマ線よりも大きい。JCO事故で放出された放射線は大部分が中性子線だった。
私たちの住む銀河系および他の銀河からくる放射線で、宇宙の全方向から均等に大地に突入してくる。一次宇宙線は、1個の粒子/1秒/1平方センチメートルという頻度で大気にぶつかてくる、主に陽子からなる。高度が高くなるほど多くなる。
放射線を出す能力をいう。放射線を出す物 (放射性物質)を放射能ともいう。原子核を構成する陽子と中性子の数の組み合わせにより不安定な原子核は放射線を出して安定な原子核になる。
1ボルトの電位差を通して電子が加速されるとき、電子が獲得するエネルギー。1eV=1.6x10-19ジュール
ラジウム226の1gにあたる放射能。毎秒370億の放射性崩壊(370億ベクレル)にあたる。ピエール・キューリーにちなんで命名された.
放射性物質の量を核の壊変数で表した単位。1ベクレルは毎秒1個の放射性崩壊。ヘンリー・ベクレルにちなんで命名された.1Bq=27pCi.
物質1キログラムについて1ジュール(1joule/Kg)のエネルギーが与えられたときの吸収線量。古い単位はラド(rad)で1Gy=100rads
同じ1Gyの放射線に被ばくしても放射線の種類によって生物に与える影響すなわち生物学的効果(危険率)は異なる。そのため、異なった放射線の影響を比較する場合には直接線量だけでは比較できない。それぞれの放射線の線量に生物学的効果比(RBE)をかけた値(これをシーベルトという)を用いる。X線やγ線ではRBEが1なので1Gyは1Svであるが、中性子線ではその持つエネルギーによってRBEは、5から20と異なるために1Gyは、5Svから20Svに相当し、α線では1Gyは20Svに相当する。古い単位100remは1Svに等しい。
1ラドは物質1kg当たり0.01ジュールのエネルギーが与えられる放射線の吸収エネルギー.1rad=0.01Gy.
1rem=0.01Sv.
毎秒1ジュールで仕事をする仕事率。
水1グラムを摂氏1度上げるのに必要な熱量は1カロリー。1カロリーは4.2ジュール。
仕事の単位. 1erg=10-7ジュール
1ニュートンの大きさの力が物体を1メートルその物体を動かすのに相当する仕事量。
力の単位。 1kgの物体に1メートル毎秒毎秒の加速度を与える力の大きさ。
放射性物質が、減衰して放射能が50%となるまでに必要な時間。放射性物質の種類によって半減期は異なる。例えば、チェルノブイリ原発事故の時放出され、甲状腺癌の原因になったヨウ素131の半減期は8日であるが、長崎の原子爆弾の原料になったプルトニウムは24,000年である。
放射線が細胞や組織を通過するときには、通過する細胞の中でその周囲にエネルギーを与えながら通ってゆく。その放射線の通り道を飛跡という。
電離放射線によって照射されている物質の、単位質量当たりに与えられるエネルギーの量。
単位はグレイ(Gy)、1Gy=1Joule/kg である。過去に用いられていた単位はラド(rad)であり、これはグラム当たり100エルグ(erg)のエネルギー吸収と定義されていた。100rads=1Gy。
放射線の影響は線量のみではなく放射線の種類とエネルギーに依存する。それは、その放射線が生体を構成する物質にどのような影響を与えるかによって決まる。例えば同じ1Gyの線量であっても、X線と中性子線では生物に与える影響は異なる。その影響を考慮して種類の異なる放射線の生物学的効果(危険率)を一つのスケールにするために用いられるのが生物学的効果比(Relative Biological Effectiveness,RBE)である。ICRPが勧告しているRBEを表に示す。
放射線の種類とエネルギー域におけるRBE | ||
---|---|---|
放射線の種類とエネルギー域 | RBE | |
光子 | 全エネルギー | 1 |
電子 | 全エネルギー | 1 |
中性子 エネルギー | <10KeV | 5 |
10KeV 〜 100KeV | 10 |
|
100KeV 〜 2MeV | 20 |
|
2MeV 〜 20MeV | 10 |
|
>20MeV | 5 |
|
陽子 エネルギー | >2MeV | 5 |
α粒子 | 20 |
組織や臓器で吸収されたエネルギーの平均した線量に放射線の生物学的効果比(RBE)ををかけたものである。すなわち、
等価線量=吸収線量 x 生物学的効果比(RBE)。等価線量はシーベルト(Sv)で表される。
放射線照射がいくつかの異なる放射線でなされた場合には、等価線量は、各放射線毎にそれに相当するRBEをかけた線量の合計になる。例えば、ある臓器がγ線0.15Gyと1MeVの中性子線0.02Gyとで照射された場合の等価線量は
0.15x1+0.02x20=0.55Sv である。
全身が一度に照射されたとしても、均一に照射されることは希で臓器によってその線量は異なる。また組織が異なれば放射線誘発がんに対する感受性も異なる。そのためICRPは感受性を考慮して組織加重係数を決めた(例えば生殖腺:0.2、骨髄:0.12、大腸:0.12等)。実効線量は照射された総ての組織について等価線量 と 組織加重係数をかけた数字の総和で表される。
生体の外に線源があり、体の外側から放射線を浴びること。エックス線、ガンマ線、中性子線、ベータ線等による被ばくがある。JCO事故の時に放出された放射線は主に中性子線で、大量に被ばくした作業員2名が急性障害でなくなった。
生体の中に放射能が取り込まれ、体の内側から被ばくすること. 取り込まれる経路は、呼吸により気道から、食物や水と共に経口的に、皮膚の傷から経皮的と3通りある。放射線の量が同じであれば、生体に及ぼす放射線の影響は、内部被ばくでも外部被ばくでも変わらない.
内部被ばくで痛ましい記録は、ラジウムを使って時計の文字盤を書いていた人たち(ダイアルペインター)の骨肉腫である。この仕事に従事していた人は若い女性が多かった。彼女たちは細かい文字を書くためにラジウムにひたした筆を繰り返しなめていたため、ラジウムを体の中にとりこんでしまった。ラジウムはカルシウムと性質が似ているために骨組織に溜まり、骨肉腫の原因になった。
放射線の被ばくを受けた人の体に現れる障害
被ばくの障害が子どもや孫に及ぶ場合。生殖細胞に放射線があたった場合に起こる可能性がある。
一定の線量以上の放射線を浴びると、どの人にも例外なく急性障害が現れるためこの呼び名がある。線量によって症状は異なり、吐き気、下痢、めまい、脱力感、白血球減少、脱毛、出血などのが現れ、線量が多ければ(6から7シーベルト以上)99%以上が死亡する。一般に確定的障害が表れるのは250ミリシーベルト以上といわれるが、JCO事故の時、周辺住民からこの線量以下で下痢、嘔吐などの症状を訴えた人もいる。白内障の発症は遅いが、一定以上の放射線を浴びると例外なく発症するため確定的障害に入る。
低線量の放射線を浴びた場合には、その障害は直ちに表れない。数年或いは数十年経った後に、癌や心疾患などになる可能性がある。その疾患になるかならないかは確率の問題で、受けた放射線が遺伝子に障害を及ぼしたかどうか、及ぼしたとすればどの遺伝子を障害したかによって異なるため、確率的障害という。
家の中に入るときにはしきいをまたいで入る。しきいは家の外と中を区別する境界線である。しきい値というのはこの言葉から由来していて、ある線量を超えると放射線障害が起きて、それ以下の場合は障害が起きないとされる境界の線量。急性障害にはしきい値があるが、晩発障害にはしきい値はないと考えられている。しかし低線量で動物に癌を誘発する実験は難しく、その証拠をめぐって長い間議論が行われてきた。調べた教材にはしきい値はあると書かれており、電力会社のホームページなどでは200mSv以下では発がんなどの影響は見られていないと説明されている。しかし、最近の基礎的な研究によると癌など晩発障害を起こす原因となる遺伝子(DNA)の二本鎖切断はがないことが明らかになった。2005年6月29日に米国科学アカデミーから発表された「電離放射線による生物学的影響」調査委員会のとりまとめでも、しきい値がないことを認めている。
「発がんのリスクには、ある線量以下であれば安全というしきい値は見つからず、線量に比例して直線的に増加する」とする仮説。一年間の公衆の被ばく限度線量である1mSv程度の放射線が人にがんを起こすかどうかは疫学的にも証明することは困難なので、このような低線量域での発がんリスクは、高線量域のリスクから外挿して得られていた。そのために仮説といわれてきたが、実験的にがんを起こす原因となるDNA損傷が、1.2mSvでも起きることが証明されたので、最近はしきい値なし直線モデル(NTLモデル)という言葉を使うことが多くなった。
人間では一度に全身に6から7シーベルト以上放射線を浴びると99%以上が、4シーベルトでは約50%の人が急性障害で死亡する。死亡までの時間は浴びた線量によるが、約1ヶ月から2ヶ月である。腸管からの出血、嘔吐、下痢、感染、貧血等の症状が著しい。JCO事故で16から20シーベルト被ばくしたとされるO氏は最先端の治療を受けたが、被ばく後80日で死亡した。このように全身に急性被ばくした場合は、命を救える治療法はないし、将来も期待出来ない。なぜならば、放射線により体の設計図であるDNAがずたずたに切断されてしまい、これを元に戻すことは不可能だからである。急性障害と白内障は一定量以上の放射線を浴びると例外なく表れるので、確定的影響ともいう。
浴びた放射線の線量が少ない場合は、癌や白血病などのように障害がずっと後になって表れるので、晩発障害とばれる。放射線によって傷が付く細胞や遺伝子はランダムでどれが障害されるのかは確率の問題であるため確率的障害とも呼ばれる。白内障は時期的には遅く発症するが、一定の線量を被ばくすると必ず現れる症状であるため、晩発障害であっても確定的障害である。晩発障害にはしきい値はないという立場から放射線防護を考えることが、人々の健康を守るためには重要である。
放射線の量でどこまでが低線量かの定義は、放射線の生物に与える影響が分かって来るに従って低くなってきている。国連科学委員会2000年報告によるとガンマ線、エックス線では1mGy程度。1mGyは平均して1個の細胞当たり1個の飛跡が通る程度の放射線量。最近1.2mGyの被ばくでも体の設計図であるDNAに変異を起こす可能性のある二本鎖切断が起きることが分かった。1.2mGyで起きる二本鎖切断の頻度は20個の細胞当たり1個であるという。
化学反応は原子間を結ぶ化学結合が切れたり、再結合したりして、1つの物質から他の物質へ変化する反応である。たとえば、酸素分子と水素分子という化学物質から水という化学物質ができる化学反応は、酸素と水素それぞれの分子内の化学結合が切れて、酸素原子1個と水素原子2個が、新たに一定の規則にしたがって結合し、一定の形をもつ水分子をつくり直す反応である。化学反応はあくまでも原子どうしの結合の変化の問題である。核外電子をやりとり(イオン化)することはあっても、原子核そのものが崩壊してしまうことはないので、上の反応で酸素や水素が他の元素の原子へ変換することはない。化学反応に伴うエネルギーの出入りはせいぜい10eV位までのオーダーである。
たとえば酸素、窒素、水素という化学物質は、それぞれ、酸素原子、窒素原子、水素原子が2個ずつ結合して、それぞれの分子(化学物質)を形成している。原子同士の結合は、核外電子の振る舞いに依存していて、これを化学結合という。複雑な、蛋白質などの生体高分子も、またその単位となるアミノ酸の分子も、原子どうしが化学結合してできた化学物質である。
生体内で合成される高分子化合物の総称。 タンパク質、核酸、多糖類(でんぷん、セルロース、グリコーゲン)などが含まれる。分子構造的には、1次構造(それぞれ、アミノ酸、ヌクレオチド、単糖の配列順序)と高次構造(へリックス構造、ランダムコイル構造、ヘアピン構造、糸くず構造など)が、生体内の機能と密接に関連している。生体分子の立体構造(高次構造)を保つためには、しばしば水素結合が重要な役割を果たしている。放射線や化学物質が原因となって、一部でも欠損したり、入れ替わったりする(1次構造の変化)やそれに伴う高次構造の変化が、重大な病気の原因となることがある(貧血、遺伝病、がん、染色体異常など)。
液体の水や氷などの無機物質、生体内分子など、多くの物質のなかで、分子間、または分子内で、水素原子を介して弱く結びつく結合であり、O−H・・O、N−H・・O、などの・・部分のこと(O−H、N−Hは通常の化学結合を示す)。水素結合(・・)の強さ(結合のエネルギー)は数分の1eV程度である。氷のなかでは各酸素原子に、2本のO−H化学結合のほかに2本のO・・H水素結合がダイヤモンド格子をつくるように配列して強固な結晶を作っている。DNAの二重らせんの骨格は、核酸塩基のアデニン・・チミン、グアニン・・シトシン間の多数の水素結合対によって保たれている。
筋肉その他の生体の重要な構成成分で、窒素を含む有機高分子化合物。生命活動に極めて重要な活性を持つ酵素やホルモン、血液成分の母体でもある。アミノ酸どうしがペプチド結合でつながり合って構成される。アミノ酸数が2〜20程度の低重合体をオリゴペプチド、それ以上をポリペプチド、分子量が1万以上(アミノ酸数が数百〜数万)をタンパク質と一般に呼ぶ。アミノ酸の種類と数、つながり方(配列順序、高次構造)により、さまざまな機能を発現する。高次構造の変化はタンパク質の変性といい、機能活性を失う。アミノ酸配列を決めるのは、核酸の働きである。
ヌクレオチドが重合したポリヌクレオチドのこと。ペントースとしてリボースを含むものをリボ核(RNA),デオキシリボースを含むものをデオキシリボ核酸(DNA)と呼ぶ。両者は機能も異なる。DNAは遺伝子の本体であり、染色体を構成して細胞核中に存在する。ヒトの1個の細胞中にある23対の染色体上のDNA分子をすべてつなぎあわせて引き伸ばすと2m(ヌクレオチド数で32億対)もある。RNAは、DNAの情報を鋳型として読み取り、メッセンジャーRNA,転移RNA,リボソームRNAが役割分担しながら、どのアミノ酸(したがって、どのタンパク質)を作るか(生合成)を担っている。生物が無生物と区別される自己増殖能力は、核酸とタンパク質が結合した核タンパク質がになう。
核酸に放射線や化学物質による化学的修飾や切断などが起こると、塩基の変化(突然変異という) → タンパク質の1部が本来のアミノ酸ではないものに置き換わり(1次構造変化)→ 高次構造の変化がおき、その結果が目に見える重大な障害として現れることがある。個体レベルではガンなどの疾患、胎児の体細胞にこれが起きると奇形、生殖細胞で起これば遺伝性疾患の原因となる。
ペントース(リボース、デオキシリボース)と核酸塩基が結合したものをヌクレオシドといい、これにリン酸が糖部分とエステル結合したものをヌクレオチドという。核酸の最小単位である。ヌクレオチド3連結が1つのアミノ酸を規定する遺伝暗号(コドン)に対応している(1対1以上の対応もある)。
DNAを構成する核酸塩基は、アデニン、グアニン、シトシン、チミンであり、RNAは前3者とウラシルからなる。ヌクレオチド中の塩基がどのような配列順でつながって核酸を構成しているかは、まさにその生命が、その生命である由縁を規定している。
五炭糖ともいう。炭素原子5個をもつ単糖の総称。核酸の構成要素のリボース、デオキシリボースも五炭糖である。
六炭糖ともいう。炭素原子6個をもつ単糖の総称。 グルコース(ぶどう糖)、フルクトース(果糖)、ガラクトースなど。
『岩波・理化学辞典』第5版、1998年
『元素の小事典』高木仁三郎著 岩波ジュニア新書 2001年
『原子力市民年鑑 2003』原子力資料情報室編 七つ森書館 2003年
『ニュートリノ天文物理学入門』小柴昌俊著 講談社 2002年
『地底から宇宙を探る』戸塚洋二著 岩波書店 1995年
『星はなぜ輝くのか』 尾崎洋二 朝日選書 2002年