核燃料は「リサイクル」できる?
サイクルにならない核燃料サイクル
再処理工場の問題
プルトニウムが持つ問題
再処理工場で大事故が起こったら
再処理の持つ問題点のまとめ
子どもたちをミスリードする電力会社
参考資料

 

サイクルにならない核燃料サイクル

 核燃料サイクルという言葉を知っていますか?
 「石油や石炭などは一度使うと二度と使えないけれど、ウランはリサイクルすることが出来  ます」
 「使用済み核燃料の再処理を繰り返せばウラン資源を数十倍も有効に活用できます」
などと宣伝されています。電力会社で構成されている電気事業連合会がこのサイクル施設の構想を発表したのは1984 年でした。
   初めの核燃サイクル計画は図1に示すようなものです。(図をクリックすると拡大できます。)ウランの採掘、濃縮、加工から原子力発電所へ、発電所からでた使用済み核燃料の再処理、再利用にいたるまでが通常の原子力発電所を中心にしたサイクルです(図右側)。使用済み核燃料から回収された回収プルトニウムをウランと混ぜ高速増殖炉で燃やしながらプルトニウムをさらに増やし、これをまた再処理、再利用する(図左側)のがもう一方のサイクルで、全体を「核燃料サイクル」といっていました。この計画のもと、高速増殖炉が2 基(福井県敦賀市に「もんじゅ」が茨城県大洗町に「常陽」)建設されました。しかし、高速増殖炉がもつ構造的な難しさのため、日本より早くこの計画を推進したフランス、ドイツなどの国々は相次いで計画を中止してしまいました。日本でも1995 年「もんじゅ」が運転開始後まもなくナトリウム漏れ火災事故を起こし、運転再開のめどはたっていません。その上2003 年1 月には、「もんじゅ」の建設を許可したこと自体が無効であるという名古屋高等裁判所の判決が下されました。従って現在では図の左側サイクルの廻る見通しは全くありません。

 図2(図をクリックすると拡大できます。)は経済産業省資源エネルギー庁の委託により、エネルギー環境教育センターから高校生に向けて配布されている「6,000,000,000 人のエネルギーと地球環境」にある核燃サイクルの説明図です。2002 年に印刷されたこの図ではすでに高速増殖炉を中心とする図1 の左側がすっかり消えていて右側だけになっています。燃料が「サイクル」しているように見えるよう工夫して描かれていますが、実際にはサイクルになっていません。図2の原子力発電所で使用済みになった燃料は再処理工場に運ばれプルトニウムが取り出されます。この回収プルトニウムは、本来ならば図1 の高速増殖炉で使われるはずのものでした。しかしこのサイクルが動かなくなってしまったためにプルトニウムの行き場所がなくなってしまったのです。そこで考え出されたのが回収プルトニウムと回収ウランとを混ぜてMOX燃料(混合酸化物燃料)とし、もともとウランを燃やすために作られた原子力発電所(軽水炉)で再利用する計画で、これを「プルサーマル計画」と言います。

 しかし、この計画は経済的にみても、安全性の面でも問題が多いため、地元の反対も強く、本格的な実施の見通しはたっていません。さらに、MOX 燃料を燃やしたとしても、その燃料を再処理する施設は、現在その計画すら存在しません。したがって図2 にもプルサーマルの先、再処理、再利用は描くことができず、サイクルにはならないのです。それにもかかわらず、教材には「日本では、ウラン資源の有効利用の観点から、再処理を行い燃料をリサイクルすることを基本としています」と記載しています。

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再処理工場の問題

 核燃料を再使用する流れの中で特に大きな問題を抱えているのが再処理工場です。トイレなきマンションでも述べられているようにここでは原発の使用済み燃料を化学処理して核分裂生成物(高レベル放射性廃棄物)を分け、燃え残りのウランと核反応で出来たプルトニウムを取り出します。使用済み燃料は膨大な放射能の塊で強い放射線と高い熱を出し続け、生命にとって大変危険なものです。しかし、これを扱う再処理の行程や問題点についてはどの教科書、教材にも記述されていません。
 日本の再処理工場は青森県下北半島六ヶ所村に建設されています。ここは図3 (図をクリックすると拡大できます。)に示すように,米軍三沢基地、航空自衛隊基地、自衛隊射爆場、海上自衛隊基地などが隣接しています。これまで航空機事故、誤爆なども起きていますから、事故に巻き込まれる危険性を考えると立地条件も最悪と言えます。
使用済み燃料は原子力発電所で最低1 年間冷やされた後、日本各地の原子力発電所から船や巨大なトラックに積まれてはるばる下北半島にまで運ばれます。この一級危険物の運搬時に事故が起きる可能性は否定できません。
 再処理工場に運びこまれた使用済み燃料は先ず貯蔵プールで保管されます(図4)。ここで貯蔵される予定の使用済み燃料は3000トンで、冷却プールの規模としては世界最大級のものになります。
再処理の工程は燃料棒(ジルコニウム合金のさやの中にペレットが詰められたもの)を、そのさやごと数センチの長さに切ることから始まります。このときに燃料中に含まれていた揮発性の放射能が放出されます(表1)。ぶつ切りの燃料は溶解槽の中で硝酸溶液を使って溶かされます。使用済みの核燃料の中には非常に溶けにくい金属が含まれていますので、硝酸溶液を高温に加熱してもなかなか溶けません。この不溶解残渣はいわば死の灰の塊ですから強い放射能と発熱性をもっており、事故の原因になります。1973 年イギリスのウインズケール(現在のセラフィールド)再処理工場で起きた大事故の原因はこの不溶解成分にありました。

図4 再処理工程と起こりうる事故 (各々の工程で起きた事故を図の上段に示した。)

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プルトニウムが持つ問題

 再処理工場が持つ最大の問題はプルトニウムにあります。プルトニウムは発ガン性も強く、吸入すると数十マイクログラム(1 マイクログラムは1/1000 ミリグラム)で100%の人に肺癌を発症させるといわれています。また、爆発性も強いので原爆の原料として使われます。このプルトニウムが年間10トンも運び込まれ、1 日に取り扱われる予定が50kg にもなります。プルトニウムがこれだけ大量に取り扱われるとなると、臨界管理の問題が生じてきます。プルトニウムのような核分裂を起こす物質は、宇宙線の中の中性子や自身の発生する中性子によって核分裂の連鎖反応(臨界)をおこし、爆発する可能性があります。そのため、プルトニウムの濃度が高くなりすぎないようにしたり、臨界の予防策をとったり、その管理に大変な労力と費用をついやさなければなりません。

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再処理工場で大事故が起こったら

 再処理工場は有機溶媒をたくさん使うため、火災事故や爆発事故がおきやすいことは上で述べました。そして、一旦事故が起きると、原子力発電所の事故と比べて集まった放射性物質の量が格段に多いため、被害の大きさも比較にならないほど大きくなる可能性があります。六ヶ所で過酷事故が起きれば、チェルノブイリ事故を越えた地球規模の汚染が起きるでしょう。
 再処理工場と航空機テロ:2001 年9 月11 日、ニューヨーク貿易センタービルに大型旅客機が激突したテロ事件後、再処理工場がテロの対象になる可能性が現実味を帯びてきました。フランスにあるラ・アーグ核燃料再処理施設が、もし、このようなテロの目標になった場合に何が起こるかを分析した記事を高木学校ホームページで紹介しています。
http://www.jca.apc.org/takasas/gen/gen_01.html

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再処理の持つ問題点のまとめ

以上挙げた点を含め、再処理の持つ問題点をまとめてみますと、

  1. 再処理工場は、核施設としての危険性と化学工場としての危険性をあわせもつことになります。工場では引火点の低い有機物質が多量に使われるため、火災や爆発事故の可能性も低くなく、実際燃料棒のさや火災はイギリスのセラフィールド、フランスのラ・アーグで起きています。
  2. プルトニウムの爆発性・毒性による危険を抱え込みます。
  3. 大事故の可能性があります。
  4. 再処理の過程で、環境中に放出される放射能も非常に多くなります。使用済み燃料の中にたまっていた希ガスなどが、切断される段階で一時に放出されてしまうこともあって、その量は、原発が出す1年分の放射能を1日で吐き出すといわれるほど大きいものです。表1は再処理工場と原発の放出放射能を比較したものです。放射能の“たれ流し”という言葉がぴったりに思えてきます。
  5. たまっていく放射性廃棄物の量も再処理をしない場合に比べて増えてしまいます(図5)。政府や電力会社がいうように高レベル放射性廃棄物はガラス固化体にすれば小さくなります。しかし、低レベル廃棄物は図5 のようにフランスのラ・アーグの再処理工場では元の15 倍、東海再処理工場では約40 倍になっています。六ヶ所工場の申請値は約7 倍ですが、東海村の実績を見るととてもそれで収まるとは思えません。さらに再処理工場を一旦動かせば施設全体が放射性廃棄物となりますからこれを含めると、総量は200倍近くになると試算されています。
  6. 経済的損失もまた大きなものがあります。1989 年の工場建設申請費は7,600 億円でしたが、1999 年の見直しでは2 兆1,400 億円に跳ね上がっており、工場はいまだに完成していません。さらに、一旦放射性廃棄物の処理をはじめてしまうと、その解体費も膨大になり19 兆円と試算されています。(現在「新原子力長期計画」が検討されており、使用済み燃料の処分の方法が当面の議題となっています。全量再処理、部分再処理、全量直接処分、当面貯蔵、の4種類の方法が比較されてます。これまでこれらのコスト比較がなされないまま全量再処理が推し進められていました。)
表1「再処理工場と原発の放出放射能」(年間管理値)
(「下北半島六ヶ所村 核燃料サイクル施設批判」より)
放射能の種類 東海第二原発 東海再処理工場 場 六ヶ所村再処理工場*
気体(希ガス)
1400
89000
330000
気体(トリチウム)
550
2000
液体(トリチウム外)
0.037
0.96
0.70
液体(トリチウム)
1900
18000
プルトニウムなど
アルファ放射体
0.0041
0.0096
*申告者による値

 

 以上あげたような理由で、原子力関係者からも「再処理見直しは施設汚染前の今しかない」という意見も出されています。しかし、「核燃料サイクルは、40年前に国策として打ち出された。その根本的な見直しを迫られているのに、誰もかじを切れない。硬直した原子力政策の現状」(朝日新聞2003.12.10)との指摘のまま事態は進行しています。

 

 

 

 

 

 核燃料サイクル全体の問題点をまとめてみます。

  1. ウランの採掘から廃棄物の処理・処分にいたるまでの、どの過程からも放射能を出すということ、被曝する労働者が出るということ(原発で働く人々参照)。そしてそれぞれの工程で各種の放射性廃棄物が蓄積し、残されていくということ。
  2. 各施設の間で行われる放射性物質の輸送時の事故が起きる可能性、原子力発電所・再処理工場での放射能放出や事故の危険性などをはらみ、一旦過酷事故、原発震災などが起きれば、その地理的広がりは世界的規模のものになる可能性を持つこと。
  3. 放射性物質によってはその半減期が数十万年以上にも及び、汚染が広範囲に広がれば遥か先の未来の生命をも脅かすこと。その上、地球規模の汚染を取り除く方法はないこと。
  4. ウラン採掘や再処理などを押し付けられる地域と電力を消費する地域、それによって利潤を得る企業と被曝を押し付けられる労働者との間に、大きな差別を生むこと。
  5. 核物質を核兵器や他の危険な用途への転用、盗難などから防ぐための特別な管理体制が敷かれ、核テロを防ぐという口実で、個人生活が極端に監視・制限される可能性があること。
  6. 再処理は技術的に難しいだけでなく、大事故の危険性がつきまとうこと。そして使用済み燃料を直接処分するよりも、経済的に大幅に高くつくこと。

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子どもたちをミスリードする電力会社

 東京電力は子供向けのパンフレット『サイエンスキッズ』に「ウラン燃料はリサイクル変身術の名人」というタイトルで図6のようなイラストを載せています。イラストとはいえ使用済み燃料を子供が素手で持っています。使用済み燃料が強い放射線と熱を出し、このように近くに寄れば致死量の放射線を浴びてしまうことはこれの章でもトイレなきマンションでも説明してきました。これはいくら何でもひどすぎる絵です。さらに「ウラン燃料の97%はリサイクルしてもう一度燃料として使える」と書いています。これは本当でしょうか?

 図では高レベル放射性廃棄物3%以外はすべてリサイクル出来ているように書いてありますが、上に述べたように実際はそうなっていません。再処理工場でプルトニウムを取り出したとしても使用済み燃料の1%でしかなく、これをMOX燃料にして利用する見通も難しいことはこれまでに説明してきました。使う見込みのないプルトニウムを安全に管理しなければならないことを考えると、危険性から見ても、エネルギー的に見ても、再処理は人間社会にとって大きな負担でしかないのです。
 日本の原子力発電所からでた使用済み燃料の再処理はこれまで主にイギリスとフランスで行われていて、回収ウランの再利用は試験的に行われているにすぎません。この絵とこの章で述べてきた現実の落差を考えてみてください。

 

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参考資料

『6,000,000,000 人のエネルギーと地球環境』エネルギー環境教育センター制作(経済産業省資源エネルギー庁の委託による)2002年
『サイエンスキッズ』NO.16 号、東京電力 2001 年春
『下北半島六ヶ所村 核燃料サイクル施設批判』高木仁三郎著 七つ森書館 1991年
『原子力市民年鑑2004』原子力資料情報室 七つ森書館 2004 年
『止めよう再処理』原子力資料情報室パンフレット 2002年
ホームページ
高木学校原子力問題研究グループ
 http://www.jca.apc.org/takasas/gen/index_gen.html
原子力資料情報室 http://cnic.jp/

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