電気のつくりすぎ? |
原発「出力調整運転」はチェルノブイリ原発事故のもと |
原発稼働率75%の舞台裏 |
余った電気はどうするの? |
電力政策の問題点 インデックス |
原子力発電所にとって、揚水式発電所が不可欠になってくるのは電力需要が最少の時。グラフ1でいうと【グラフ1A】の頃のことです。とりわけ、年間を通じて電力需要がもっとも少ない4月の午前3〜5時頃とか、全国の工場が休みに入っていることの多い正月、1月2日・3日の未明の時間帯が問題です。
グラフ4に示したのは2000年4月のピークの様子です。ピーク電力が12,130万kwほどですので、そのときの最少時【グラフ4 D点】には、これより遙かに少なくなっているはずです。
グラフ4のDの頃、このときにどんなことが起こっているかというと・・・・
グラフ1・3では、「流入式水力・地熱」や「原子力」の電力供給はほとんど変化していません。グラフ4のDの時のように、春や秋の電力需要のボトムの時には、これらの電力供給量よりも需要が下回ってしまうのです。つまり、電気が余ってしまうのです。
電気は余らせることが出来ません。つくってしまった電気は、その瞬間に使わなければなりません。というより、電気というのは使う分だけ、発電されるといったほうがいいかもしれません。
だったら、割合の大きな「原子力」の発電量を下げればいいではないか、と思うでしょう。ところが「原子力」はそうは簡単にいかないのです。
原子力発電というのは、巨大なシステムで、All or Nothingといった動き方しかできません。ON と OFF しかないのです。これは、例えば、巨大なジャンボジェットのようなものです。ジャンボジェットは、高度1万メートルを、巡航速度時速800kmほどで飛行しているときは、巨体であっても安定して飛行することができます。しかし、速度を落とした離着陸の時には、非常に不安定になり、事故も離着陸時の前後5分間ほどに集中しています。
原発もこれと同じで、動き出したら次の定期点検まで最高出力で運転し続けるしかないのです。
原子力発電の原子炉も同じような状況があります。原子炉も、出力を落として運転しようとすると、とても不安定な状態になります。そのような運転の仕方を「出力調整運転」といいますが、「出力調整運転」の試験をしていて事故になってしまったのが、あのチェルノブイリ原子力発電所の事故(1986年ウクライナ、当時のソビエト)です。チェルノブイリ原子力発電所の原子炉は日本の原子炉とは構造が違うことは確かですし、日本の電力会社や原子力安全委員会など政府系の組織は、様々な「規則違反」があって事故になったのだと、人為的ミスを過大に強調しています。しかし、程度の差こそあれ、「出力調整運転」を行えば、不安定になることにはかわりありません。
日本でも商業炉で「出力調整運転」試験を行いました(伊方原発2号機で1987年10月と1988年2月)。その危険性故に大きな反対運動も起こり、それ以来実施されていません。
原発は稼働率が高くて、優れた電源であると宣伝されています。2000年の実績で全国の原発の設備利用率は75%と報告されています。これは、原発が効率がいいからではなくて、むしろ、出力調整ができないために、全出力で優先的に動かしていたためといえます。先ほどのグラフ1・4でも、原発の電力はグラフの下の方に、常に同じ出力で運転されています。原発はこのようにしか動かせないのです。
このような使い方を、「ベース電力」と呼んでいますが、ベース電力は昼も夜も同じ出力で運転していますので、時間に応じて需要が変化する運転「負荷追従運転」は、原発以外の石油・石炭・LNG火力や、ピーク時には揚水式水力も加わって、まかなわれています。その結果、年間を通じると水力は22%程度、火力は51%程度の稼働率になってしまいます。これらの電源が故障など不具合で運転出来ないのではなく、電力会社の都合で動かしていないのです。
ベース電力としての原発は、一基あたりの出力が大きい分だけ、故障などにより停止してしまうと、電力供給に大きな穴を開けてしまうおそれがあります。そこで、無停電を至上の命題としている電力会社はバックアップ用の電源を用意しています。つまり、原発を増設すると同時に、本来ならば廃棄するはずの火力発電所などを廃止せずに温存しているようです。ですから、設備容量の剰余分はどんどんふくらんでいきます。もちろんそうしたバックアップの費用は、原発の建設費用計算に含まれているはずはありません。
さて、原発の「出力調整」ができないとなると、余った電力をどうするんでしょうか。
電気は余らせることができませんから、何らかの形で使うしかありません。
深夜、電力を消費してくれるところを探して、電力会社はあの手この手のやり方をしています。「負荷平準化」という用語は、電力使用量のピークをずらす(ピークシフト)・抑える(ピークカット)という意味で使われることが多いようですが、逆に、電力使用量の少ないときに使用量の底上げ・ボトムアップをするという、このような意味でも用いられています。
いずれも、昼間と夜間の電力料金に格差をつけて、割安な夜間電力をどんどん使ってもらおうという作戦です。
電力使用量ボトムアップの例 |
---|
●夜間に建築物などを照らし出すライトアップ。 |
●深夜電力を使う、電気式温水器、蓄熱式空調システム、エコアイス、ヒートポ ンプ式給湯器、エコキュート |
●オール電化住宅(電気温水器などで深夜電力に依存している。) |
一般家庭では、電力料金契約として夜間電力を安く設定した、「電化上手」とか「おトクなナイト8」「おトクなナイト10」というような料金制度があります。「おトクなナイト10」の場合、2005年3月現在、昼間は29.0850円/kWhでやや割高ですが、夜10時から朝8時までの10時間は 6.6675円/kWhと、
通常の従量電灯契約20.6430円/kWhに比べると約70%引きという料金設定です。(いずれも、第2段階料金、税込み)
まさにダンピングといってもいいような値段ですが、深夜電力が余って、原発を止めざるをえないような事態を招くよりはましだという経営判断があるのでしょう。
そして、こうした電力会社の経営戦略に私たちの生活は引き込まれて、ライフスタイルまでもが変わってきている側面があります。例えば、深夜までコウコウと照明をつけているコンビニエンスストアなどはその典型といえるでしょう。ちなみにコンビニ店一軒の消費電力は、一般家庭の50倍近くになるということです。