原発の発電コスト
原発発電のコスト 電気事業連合法 2003年12月
耐用年数40年・・・新幹線と原発
コスト試算のマジック
「試算」は「理想的なモデルプラン」
隠蔽体質・・・原発促進データの信用性
この発電コストに含まれていないその他の費用
    電気を捨てる”発電所”・・・揚水式発電所
    電源三法交付金・・・地元への懐柔策
    送電費用
    バックエンド費用
原子力は本当に安い? インデックス

 

原子力発電の発電コスト 電気事業連合会 2003年12月

原発などの発電コストを試算
 2003年12月16日、電気事業連合会は「モデル試算による各電源の発電コスト比較」を公表しました。1999年以来 4年ぶりの試算改訂です。
 運転年数40年・設備稼働率80%の場合、原子力5.3円/kWh(以下すべて単位同じ)、石炭5.7円、LNG 6.2円となりました(左表)。
 しかし従来の法定耐用年数等で試算すると、運転年数15〜 16年・設備稼働率80%として計算すると、原子力7.3円、 石炭7.2円、LNG 7.0円、となるそうです(同表)。

さらに有価証券報告書を用いた既存発電所についての試算では原子力 8.3円、火力平均7.3円となるそうです。
 いろいろな数字が出てきて、いったいどれを信用していいのかわから なくなりますが、要するに、コストというのは試算の前提条件によってかなり変わってくるということなのです。試算結果としての数字は、ある程度の目安にはなると思いますが、どの数字も絶対的なものではありません。この後で詳しく見てみますが、電力会社にしても政府にしても、自分たちの方針(つまり原発の推進)がもっとも有利に見せられるような試算を利用しているということを理解しておかなければなりません。
 従って問題になるのは、その試算の前提となる条件にどのようなものなのが含まれているのかということです。前提としている条件には、意図的なもの、不合理な点など、多くの問題点が見られます。また、原発の問題には、前提条件に含まれていない隠されたコストが存在することも問題です。こうした問題について、次に見ていきます。

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耐用年数40年 新幹線と原発

 従来原発の"運転年数=耐用年数"は、減価償却の終わる「法定耐用年数」16年でした。しかし、ここ数年、電力会社や経済産業省などは、初期投資が大きく、燃料費の割合が化石燃料に比べて比較 的に小さい原発の"耐用年数"を40年として、コスト計算をするようになりました。
 このことから言えることは、電力会社は原子力発電の経済性をアピールするために、耐用年数を引き上げ、原発を40年も使い続けることを想定しているようです。別の言い方をすれば、原発推進の結論が先にあって、コスト面でそれが都合よく説明できるように、耐用年数を40年に引き上げた、ともいえるでしょう。そうしないと、他の電源とコスト競争で打ち勝つことができません。
 そのことと実際原発が40年の使用に耐えられるかどうかは別問題。データの出し方からして、40年という数字を出してから、現場に指示をして、実際40年の使用に耐えられるか調べさせたような進め方をしていました。経済性を実証するために安全思想が無視されている、そう言ってもいいかもしれません。
 例えば、いまから40年前、東京オリンピックが開かれた年に開業したのが東海道新幹線です。今も当時と同じ型の0系と呼ばれる車両が山陽新幹線に走っているようですが、それも開業当初に製造されたものではありません。この形は1985年まで製造されたそうで、今残っているのもまだ20数年経っているに過ぎません。初期のものは老朽化し時代遅れになって、とっくに引退・解体されているはずです。
 ところが原発の場合は、まさに全く同じ原子炉がそのまま40年も使い続けられようとしています。新幹線は時速200kmを超えるスピードで激しい振動や摩擦にさらされていますが、原子炉はそれよりさらに危険な放射能と高温・高圧に、しかも運転期間中は四六時中さらされているわけです。
 40年前につくられた新幹線の車両をそのまま時速200kmで走らせ続けるとしたら、整備に当たる技術者は何というでしょう。新幹線と原発なんて直接比較することはばかげているかもしれませんが、4 0年という時間の重荷を理解する例になるとは思います。

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コスト試算のマジック

 このような発電所の耐用年数でコスト比較をする試算方式は、「耐用年数発電原価試算」といって、1986年から採用されています。ところが、その前までは「初年度発電原価試算」という方式が使われていました。両者の違いとその背景を整理してみると、原発をなんとか有利にみせようという意図がよく分かります。

□初年度発電原価試算:
発電所が完成した後1年間の実績を基に電源別のコストを比較しようというもので、建設費、燃料費、および人件費を含む維持管理費を実績値に基づいて作成します。但し、稼働率については比較のため統一し、水力は45%、火力・原子力は70%にしています。
□耐用年発電原価試算:
まず電源別に発電所の耐用年数を決めておき、期間中の燃料費や為替レートの変動を予測し、それをモデルプラントのコストに反映させて比較しようというものです。稼働率などの条件は「初年度..」と同じです。(前述の電気事業連合会の試算では"設備利用率≒稼働率 "80%の条件)

 この違いが何を意味しているか、その背景を見てみましょう。
 通産省(当時)が最初に試算を発表したのは1979年です。この年イラン革命とその後のイラン=イラク戦争を契機とする第2次オイルショックがはじまり、原油価格が急騰していました。そこで「初年度発電原価試算」方式により、実績をベースに試算して発表を始めたのです。原子力の経済的な優位性を印象づけるにはもってこいの内容でした。
 ところが、1986年、非OPEC諸国の原油増産により原油は供給過剰となり、原油価格は急落しました。逆オイルショックと呼ばれる状況で、化石燃料を用いた発電は、コスト的に優位になるはずでした。
 このとき通産省(当時)は発電コスト比較で突然「初年度・・・」方式をやめて、「耐用年数発電原価試算」方式に変更したのです。「発電所のように長期に渡る設備には、使用される燃料価格と為替レートの変動をコスト計算に含めるのがより公平」と通産省は言っていました。新しい試算方式の問題は、燃料価格の見通しとしてIEA(国際エネルギー機関:石油を中心としたエネルギー安全保障を追求している国際的組織)の試算を用いていて、原油価格など常に大幅な値上がりを前提にしています。一方で原子力の燃料はほとんど変化なしとされていますから、長い年月にわたって試算をすれば、化石燃料による発電の方が不利になってしまうのです。
 そして、前述したように原発の"耐用年数"を40年に引き延ばして、原発のコストをさらに安く見せかけようとしています。

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「試算」は「理想的なモデルプラン」

 「耐用年数発電原価試算」の方式のもう一つの問題は、個々の発電所のコストではなく「モデルプラント」における試算だということです。個々の発電所では、それぞれ立地・建設条件も違うし、燃料の輸送コストなどその他の条件も変わってくるので、電源別に単純に比較することは出来ません。電源種別毎に理想的な「モデルプラント」を想定し、そこに様々な数値を当てはめて試算したものが発表されている数値ですが、実際の個々の発電所のデータは公表していません。
 具体的な個々の発電所の原価試算はないのでしょうか。実は、各電力会社が原子力発電所を建設する際の手続きとして「電源開発調整審議会」での決定後、通産省(現経済産業省)に「原子炉設置許可申請」を行います。ここで、電力会社は建設しようとする原発の発電原価について試算し、結果を記載することになっています。これも実績ではありませんから、あくまでも予測にすぎません。参考までに、東京電力の原発について、つぎのような原価試算が提出されています。


( *注:この年代の試算では耐用年は16年)
 この表から見ると、原発の発電原価が一般に公表されている「モデルプラント」を用いた試算に比べてかなり割高であることは明らかです。電力会社自身は、そのことを一番よく知っているはずで、それでも「国策」として推進されている原子力開発に、異論を唱えることが出来ないでいるようです。

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隠蔽体質・・・・原発推進データの信用性

 「原子力発電は安全でしかも経済的」、政府・電力会社は、原発推進の理由としてことあるごとにそういってきました。なかでも原発の経済性は、これまで原子力推進の最も大きな根拠でした。
 しかし、その根拠を支える議論の透明性は確保されているのか、根本的な信用に疑問を抱かせるようなことがまた一つ明らかになりました。
 2004年3月参議院予算委員会において,社民党の福島党首の質問に対し,日下資源エネルギー庁長官(当時)は,「日本では(核燃料の)再処理*をしない場合のコストを試算したことはございません」と答弁しました。ところが、7月になって資源エネルギー庁の「ロッカー」から、したはずのない「試算」の資料が出てきたのです。
 隠されていた資料は,1994年2月4日の総合エネルギー調査会原子力部会核燃料サイクル及び国際問題作業グループにおける議論用参考資料として、事務局が作成した「核燃料サイクルの経済性試算について」というものです。これによると核燃料再処理のコストは再処理をしないで直接使用済み燃料を処分*する費用の2〜4倍という結論でした。
 まるで子供だましのやり方で、この問題の責任の追及はなされないのでしょうか。この試算が隠されている間に、着々と将来計画をたててしまって、再処理を既定路線にしてしまってから肝心の試算を公表する。例えば、「長期エネルギー需給見通し(1998)」や、「エネルギー基本計画(2003)」、それらに基づくさまざまな計画や方針決定に関わる作業が行われてきました。この試算が公表されていたら、路線を巡る議論は別の方向に行っていた可能性もあるでしょう。
 原子力推進に都合の悪いデータはひた隠しにして、都合の良いデータだけを並べる。もんじゅの事故の時も、昨年の東電の事故隠しの時もそうでしたが、この隠蔽体質はどうしたものでしょう。結局自分たちの信用をおとしめ、原子力は不透明だと宣伝しているようなものです。
 そのほかの試算・データは存在しないのでしょうか? また、そうして明らかになったデータそのものが果たして信用できるものなのかという疑念も湧いてくるはずです。

 

この発電コストに含まれていないそのほかの費用

 これまで見てきたとおり、経済産業省(旧通産省)・資源エネルギー庁のコスト試算そのものが、きわめて意図的に数字を操られていますが、実はそれ以外にも、原子力発電には隠されたコストがあります。大きく分けて次の4つの内容については、本来原子力発電を成立させるために必須の費用となっていますので、厳密な意味では原子力発電のコストに含まれるべきものです。

   ●電気を捨てる"発電所"・・・揚水式発電所
   ●電源三法交付金・・・地元への懐柔策
   ●バックエンド費用
   ●送電費用

それぞれの内容は、リンクが貼ってありますから、該当の項目のところをクリックしてみてください。

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